原価管理のスループット会計とは? 従来の原価計算との違いを解説
2024.12.11A0 生産管理利益を生み出すには原価管理が重要ですが、売り手市場から買い手市場へと変わり、「モノを作れば売れる」という時代ではなくなりました。在庫がすべて売れることを前提とした従来の原価計算では、時代に合った経営判断を下しにくくなっているため、原価管理の方法にも変化が求められています。
そこで注目されているのが、スループット会計と呼ばれる管理会計手法です。
本記事では、スループット会計の定義や目的をはじめ、従来の原価計算との違い、スループット会計を導入するメリット・デメリットについて詳しく解説します。また、スループットを活用した生産計画の立て方についても紹介しているため、参考にしてください。
【目次】
■そもそもスループットとは
■スループット会計とは
・スループット会計の定義
・スループット会計の目的
・利用される場面
■スループット会計と原価計算の違い
■スループット会計のメリット
・1. 利益の効率的な増大
・2. 在庫管理の最適化
・3. 意思決定の向上
■カンバン方式のデメリット
・1.短期的な利益重視による長期視点の欠如
・2.業務費用の管理が煩雑化する可能性
・3.過度な在庫削減がもたらす供給リスク
■カンバン方式の概要と導入に向けた理解のポイント
・1. スループットの最大化を目指す計画の作成
・2. 在庫管理を最適化する計画立案
・3. 生産能力と業務費用を考慮したリソース配分
・4. バッファを持たせた柔軟な計画
■おわりに
そもそもスループットとは
スループットとはネットワークを最適化するための重要な指標の1つで、コンピュータやネットワーク機器が一定時間あたりに処理できるデータ量、もしくはデータ処理能力やデータ転送速度を指すネットワーク用語です。スループット値が高いほど通信速度が速くなると言われていますが、実際はネットワーク機器の性能や構成、処理内容なども影響してくるため、スループット値が高い=通信速度が速いとは一概に言えません。
生産管理や製造業の分野でもスループットという言葉が使用されており、ネットワーク用語のスループットとは言葉のニュアンスが変わってきます。生産管理で使用されるスループットは時間あたりに作れる生産量を指しており、生産が効率的にできているかを評価する指標として「スループットタイム」という言葉も存在します。
製造業においては実際の売上から直接の材料費を差し引いた金額を意味し、原価管理手法にスループットの考え方を取り入れたのが本記事で詳しく解説する「スループット会計」です。
スループット会計とは
スループットの考え方を取り入れたスループット会計とはどういったものなのか、定義や目的、利用される場面について解説します。
スループット会計の定義
スループット会計とはスループットの考え方を取り入れた管理会計手法で、主に製造業で用いられています。従来の原価計算に経営全体を見渡す視点が追加されており、「スループット」「在庫」「業務費用」の3つの指標をもとに、利益の最大化を目指すための意思決定を行うのが特徴です。
たとえば、工場に新たな製造ラインの増設を検討するにあたり、設備投資を回収できるだけの十分なスループットが見込めるかを検討し、それから意思決定を行うというのがスループット会計の考え方です。
スループット会計の目的
スループット会計において、スループットは売上から直接材料費を差し引いた純利益のことです。この考え方を通じて、企業はどれだけ効率的に資源を使って利益を生み出しているかを評価します。
スループット=売上 – 直接材料費スループット会計の目的は、売上から直接かかった材料費を引いた金額を増やし、結果的に企業の利益を増加させることです。
また、スループット会計は、損益計算書上でどれだけ利益が出たとしても、実際にキャッシュ(現金)として売上を回収できなければ意味がないというキャッシュフロー重視の考え方に基づいているのが特徴です。スループット会計の本質は、在庫を過剰に抱えず、製造した製品を効率的に販売していくことで、企業の利益を最大化する点にあります。
利用される場面
スループット会計は製造業における利益を最大化するための意思決定に役立ち、新たな設備投資の可否をはじめ、製品ラインでの収益性の比較や製造方法の判断、納期遅延による影響の評価などの場面で活用できます。従来の原価管理とは在庫の評価方法や利益の計算方法などが異なるため、さらなる利益の最大化を目指したい場合はスループット会計の導入を検討しましょう。
スループット会計と原価計算の違い
従来の原価計算とスループット会計の違いとして、在庫の評価方法があげられます。
従来の原価計算では在庫は資産として扱うほか、すべての製品に間接原価を等しく配賦するため、生産量を増やすほど間接原価の割合が下がって利益が増えたように見えるという問題点を抱えていました。実際は売れない在庫を大量に抱えているだけだとしても損益計算書上では利益として計上されてしまうので、適切な経営判断を妨げてしまうのです。
スループット会計では在庫を資産として扱わず、売上として計上されてから初めて利益とみなすのが特徴です。在庫の量が損益計算書上の利益に影響しないため、利益最大化に向けた適切な経営判断がしやすくなります。
方法 | スループット会計 | 原価計算 |
---|---|---|
在庫の評価方法 | 資材費 | 資産 |
利益の計算方法 | スループット(売上-(資材費+外注費))-業務費用 | 売上-コスト(直接原価+間接原価+販売にかかる費用) |
スループット会計のメリット
利益の最大化を目指すためのツールとして注目されるスループット会計ですが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、スループット会計のメリットについて解説します。
1. 利益の効率的な増大
従来の原価計算では不良在庫も資産として扱うため、売れない商品ばかりが残っていたとしても損益計算書上では経営状態が良く見えることがあります。スループット会計では多くの不良在庫を抱えている=良くない状況という考え方をしており、製造した商品をいかに効率良く売るかという点が重視されます。損益計算書と実際の経営状態が乖離している状況を回避できるため、実際の経営状態に基づいた適切な判断がしやすいのがスループット会計のメリットです。経営状態を正確に把握することで現状に合った施策に取り組め、効率的に利益の増大を図ることができます。
2. 在庫管理の最適化
従来の原価計算では在庫を含めて製造コストの配賦を行うため、不良在庫の有無や原価率の妥当性を判断しにくいのがデメリットでした。対して、スループット会計では在庫を業務費用として扱うので、利益をもたらす在庫かどうかを判断しやすく、在庫管理の最適化を図ることが可能です。また、不要な在庫を減らすことが利益の向上に直結し、不良在庫の削減に対する意識を高める点も、スループット会計のメリットといえます。
ビジネススピードが加速している現代では、今お金に変えられない在庫よりもキャッシュを持っていたほうが健全な経営につながりやすいと考える傾向にあります。スループット会計を採用して在庫管理の最適化に取り組むことは、資金効率の向上やキャッシュフローの改善の施策としても有効です。
3. 意思決定の向上
そもそも、スループット会計は、組織全体のキャッシュフローを最大化して収益を増大させるための意思決定支援として開発された管理会計手法です。「スループット」「在庫」「業務費用」という3つの明確な指標が提示されており、製造プロセスの最適化や設備投資などを検討する際にこれらの指標をもとに意思決定を行うという仕組みになっています。明確な指標があることで企業は迅速かつ効果的な意思決定を行うことができ、競争力を高められるのがスループット会計のメリットです。
スループット会計のデメリット
スループット会計を効果的に取り入れるには、デメリットもしっかりと把握し、対策を検討しておく必要があります。ここでは、スループット会計を導入する際に注意したい3つのデメリットについて解説します。
1.短期的な利益重視による長期視点の欠如
スループット会計は、商品を売り上げた時点での利益に焦点を当てる管理会計手法です。そのため、経営者や部門管理者が短期的な利益最大化を優先してしまい、長期的な戦略に基づく適切な投資を行えないという指摘をされることがあります。短期的な意思決定には有効な一方で長期視点が欠如しているため、長期的な価格決定や利益計画などを行う際は注意が必要です。
2.業務費用の管理が煩雑化する可能性
スループット会計における業務費用とは、在庫を売るのに使った費用を意味し、在庫以外のすべての支出が含まれます。原価計算と違って、直接労務費や製造間接費などを区別して各科目の金額を算出するということはしません。商品を売るのにどれだけの費用がかかったのかが一目で分かる一方で、細かいコスト管理が難しく、どの費用を削減したら良いのかの判断が下しにくいのがデメリットです。業務費用の管理が煩雑化する可能性があるため、効率的なコスト管理を行うための対策が求められます。
3.過度な在庫削減がもたらす供給リスク
スループット会計では在庫の削減が利益に直結するため、無用な在庫を作らないことが重要です。ただ、在庫を保有するということは悪いことばかりではなく、十分な在庫を確保しておくことで受注機会の損失を回避できたり、納期の短縮によって顧客満足度の向上につながったりなどのメリットもあります。また、急激な需要変動に対応できるのもポイントです。
利益を重視するあまりに過度な在庫削減に取り組んだ場合、突然の需要増加や供給チェーンの変動に対応できず、供給不足やサービスの遅延が発生するリスクが高まります。受注機会の損失や顧客満足度の低下につながりかねないため、注意が必要です。
スループット会計を活用した生産計画の立て方
生産計画にスループット会計を取り入れることで、より効率的で利益に直結する計画を立てることができます。スループット会計を活用した生産計画を作成する際に、注意したい4つのポイントを解説します。
1. スループットの最大化を目指す計画の作成
時間をいかに有効活用するかによって企業の業績や競争力が左右されるため、スループットを最大化するには「時間当たりの利益」を考えることが大切です。たとえば同じ1万円の利益を生み出す製品だとしても、1時間で作れるのか、24時間かかるのかで時間あたりの利益が変わってきます。時間当たりのスループットが大きい製品を優先して生産するほうがトータルで得られる利益は大きくなるため、生産計画を立てる際はどの製品が時間あたりのスループットが大きいのかを分析し、優先して生産する製品やラインを決定しましょう。
2. 在庫管理を最適化する計画立案
スループット会計では在庫はコストとしてみなされるため、生産計画を立てる際は在庫を抱え込みすぎないことが重要です。スループット会計における在庫には、製品の在庫はもちろん、加工途中の製品や資材も含まれます。在庫の最適化はキャッシュフローの改善やコスト削減にもつながるため、需要予測システムなどのツールを活用するのがおすすめです。顧客需要の事前予測によって最適な在庫数を割り出せ、より精度の高い仕入れ計画や生産計画を作成することが可能です。過剰在庫や仕入れを回避することで無駄なコストを削減でき、利益の増加にも好影響をもたらします。
3. 生産能力と業務費用を考慮したリソース配分
効果的な生産計画を立てるには、人員・設備・材料を正確に把握・管理し、どのぐらいのリソースが必要かを分析して適切に配分することが大切です。また、スループット会計においては業務費用を削減することも利益増大に直結するため、新たな設備投資や人員の採用、外注を検討する前に、まずは自社で保有している資産や能力を活用できないか検討しましょう。自社の資産や能力を見直すことで不要な支出の削減に取り組め、利益の増加にもつなげられます。
4. バッファを持たせた柔軟な計画
生産計画を立てる際は、急な設備・人員の増大をはじめ、ラインでの不具合の発生や納期遅れなどのトラブルにも柔軟に対応できるように、バッファ(余裕)を持たせておくことが重要です。在庫や納期、設備、人的リソースに余裕を持たせておくことで、トラブルが発生した際も顧客に影響を与えることなく製品を納品できます。
ただし、バッファを過剰に確保するのは生産効率の低下やコストの増加などにつながりかねないので、注意しましょう。生産性やコストのバランスを考慮しながら、生産計画を立てるのが理想です。
スループット会計においては、利益の最大化の妨げになる各工程のボトルネックに着目し、全体の工程の効率を最大化するための対策が求められます。
おわりに
スループット会計は主に製造業で用いられる管理会計手法で、効率的な生産計画を立てるのに役立ちます。スループット会計を取り入れることで、利益の増大や在庫管理の最適化、意思決定の向上を図ることが可能です。また、バッファを持たせた生産計画によって、予期せぬトラブルにも柔軟に対応できる体制を構築できます。
ただし、スループット会計を効果的に導入するには、各工程のボトルネックを正確に把握したうえで、リソースを最適に配分しないといけません。コスト効率の向上や全体の生産性の最大化につながるとは言っても、製造ラインに合わせた生産計画を立てるのはかなりの手間がかかります。
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コラム編集部
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