生産スケジューラの運用戦略: 維持・活用の秘訣と注意点
2024.04.09A1:生産計画・スケジューリング本コラムもそうですが、生産システムに関する情報提供は、検討や導入に関わるトピックが多く、運用に関わるトピックは少ないのではないかと思います。実際には、検討や導入をしている時間よりも、運用している時間の方が圧倒的に長いです。そこで今回は運用に焦点を当ててみたいと思います。
まず、ネガティブな側面から話を始めますが、生産スケジューラを導入したものの運用を停止されたケースは少なからずあります。その理由は様々ですが、よくある理由を以下に示します。
- ツールがExcelから生産スケジューラに変更されたが、業務は依然として属人化しており、人事異動がきっかけでExcelに回帰した
- 制約条件の変化に追随できず、システムが実態と乖離するようになってしまった
- 自動化を目指して詳細な情報までマスタ化したため、マスタ管理が追い付かなくなった
- 5年や10年といったサイクルで行う生産システム刷新に伴うもの
一方で生産スケジューラを維持・活用されているケースも多くありますので、取り組みを少し覗きながら、考察をしてみたいと思います。
① オープンな場で活用
計画立案担当者のExcelから生産スケジューラの置き換わっただけの場合は、計画立案担当者の異動に伴い、Excelに逆戻りすることは多くあります。生産スケジューラを導入したことによって、ビジュアルに可視化され、オーダ変更、資源増減などのシミュレーションも行いやすくなります。そのため、製販会議やオペレーション会議の中で、生産スケジューラの画面を共有し、議論を行い、意思決定をするような場を設けます。計画立案担当者のツールという位置付けではなく、組織の意思決定のためのツールという位置付けで利用することが肝要です。
② 運用体制
計画立案担当者
運用体制ですが、計画立案業務を他の業務と兼務されている場合と専任にされている場合があります。専任が望ましいですが、人手不足の昨今は特に兼務が多いと思います。専任にしても兼務にしても、複数の人が生産スケジューラを使って計画立案業務を遂行できるようにされていることは共通項のように思います。複数人が日替わりで利用したり、あまりITに明るくない場合は2人一緒に確認しながら利用されています。
支援者
制約条件は変化します。この変化に追随できず、実態と乖離が生じるようになり運用を停止してしまうことがあります。計画立案担当者は日々の計画立案業務に集中しているため、維持・活用されている例では、別の支援者を置いて、制約条件の変化への対応や他工程への展開の可能性を検討されています。支援者は生産管理部門の方ではなく、業務効率化を推進するチームの方であることが多いように思います。支援者を置けない場合は、一緒に生産スケジューラの導入を行った導入ベンダとサポート契約を締結し、導入ベンダに相談されている例もあります。
③ 運用フロー
生産スケジューラの導入をする際、計画立案業務の流れを整理することが不可欠です。需要、在庫、実績などの情報はいつ揃うのか、いつ生産スケジューラに反映するのか。生産能力を検討し、製造設備の負荷が超過していた場合に、どのように負荷分散のオペレーションをするのか。計画立案担当者にとっては当たり前のことであっても、支援者など他のメンバは把握できていないことが多いです。全体のステップの流れ、各ステップで確認する内容、判断基準とオペレーション、…、当たり前にこなしていることは業務の幹です。これらを支援者や後進に明確に伝えるため、また、生産スケジューラをきっちり評価するためにも、運用フローを整理することはとても重要です。
制約条件の変化への対応に伴い、運用フローも合わせて変更になります。忘れずに明文化することが大切ですが、システムとドキュメントが分かれてしまっていると不一致が生じやすくなります。そのため、ドキュメントを廃止し、システムの中にフローを埋め込むよう工夫されている例も散見されます。
④ 後進育成
生産計画立案業務の後進の育成ですが、上記に挙げたような運用フローを片手に現担当者と一緒に計画立案を行い、生産スケジューラのオペレーションを習得します。生産スケジューラを誰でもが無理なく使えるのか、と言うと、正直そういった類のツールではないと思います。そのため、アスプローバ社で定期開催しているセミナーやトレーニングに数人で受講してみて、適性やツールへの興味を見極めてから後進を決められている例があります。
⑤ バージョンアップ
安定稼働していれば、バージョンアップの必要性をあまり感じないと思います。しかし、そのままにしておくと他社は最新の生産スケジューラを導入し、より良い計画を瞬時に立てているかもしれません。OSがサポート対象外となる懸念もあります。自社の生産スケジューラを最新の状態にしておくことが望ましく、維持・活用されている例では、意識して定期的にバージョンアップを行っています。
但し、バージョンアップを行うことにより、スケジュール結果に差異が生じてしまうとバージョンアップを実施するハードルとなります。アスプローバ社では、安心してバージョンアップを実施できるように、スケジューリング結果に差異が生じていないかを確認できる機能も提供しています。
生産スケジューラの運用について、停止事例と成功するためのポイントを探りました。組織全体でのオープンな活用、適切な運用体制の構築、明確な運用フローの整備、後進育成やバージョンアップの重要性が浮き彫りになりました。
皆様の今後の生産スケジューラ運用、維持、活用の参考になれば幸いです。
(了)
コラム編集部
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