最適化AIとスケジューラ 2
2024.11.19A1:生産計画・スケジューリング試してみたら大正解~Solver誕生
2020年、アスプローバ社は「最適化AI」を用いて、生産計画の平準化を実現しようと取り組み始めました。今回は、開発のいきさつを紹介します。
こちらを立てればあちらが…
工場で、製品を無理なくバランスよく作るための平準化は、これまでのスケジューラでは難しい課題でした。
もし製品の大きさのみが属性であれば、「大、中、小、大、中、小……」と並べることができるかもしれませんが、大の中でも作業負荷が大きいもの、小さいものがあり、両方の属性をうまく満たす並びをパズルのように求める必要があります。また、大のオーダが多い場合、単純に「大、中、小、大、中、小……」と並べると、大が作りきれず、最後に大が残るような計画となってしまいます。どこかを上手く成立させると、別の場所がおかしくなって、破綻してしまうことがよくあります。
また、「バランスよく」作るだけではなく、属性の間隔を「必ず」5個以上空けないといけないといった絶対制約の条件があったり、逆にセット品は必ず連続させないといけないといった「バランスよく」とは矛盾するような条件などもあり、実問題で登場する要件をすべて取り込むためにはさらに難しいパズルを解く必要があります。
学術の世界から実用へ
実際の問題は、建設機械の組み立て工場から持ち込まれました。この工場では、属性が40種類もあって、ルールベースでは手に負えません。この案件にかかわったビジネスパートナーは当初、プラグインによる解決を試みましたが、やはりうまくいきません。相談を受けたアスプローバ社エンジニアの小島健介さんは、これまで学術の世界で小規模に試されていた最適化AIの技術を応用しようと発案しました。
小島さんは、もともと京都大に籍を置いた数理最適化の専門家です。詳しい内容は公にできないのですが、従来のルールベースのスケジューリングロジックとは異なる、コンピュータに探索させる手法を開発できました。この手法には「ペナルティ」という概念があります。この場合は、最適な間隔からの乖離です。「並び順を少し変えてみて、ペナルティがどう変化するかを評価して、新しい並び順を採用するかどうか決めます」と小島さんは説明します。
おそらく世界で初めてのAI生産計画は、かなり短期間で生まれました。ただ現場との調整にはそれなりの時間がかかり、半年ほどかけて使えるプログラムに仕上げました。この過程では、これまでアスプローバ社が長年の経験で得てきたノウハウが役立ちました。その結果、人手で1週間あたり3時間かかっている計画立案作業が、AI生産計画導入により、10分程度まで削減できました。コンピュータは文句1つ言わず、何万、何十万回の計算を素早く行います。スーパーコンピューターでなくても、アルゴリズム次第で、恐ろしいほどの力を発揮してくれます。
新たなSolverが次々と
最適化AIのスケジューラは「Solver」(ソルバー)としてシリーズ化されることになりました。平準化を任務とするSolverは、その第1号として「S1」と命名されました。その後、さまざまな現場の特性に応じて、異なったSolverが生まれ、現在はS10まで開発されています。
課題は、使いやすさの向上です。UI(ユーザ・インターフェイス)の改善や、手間がかからずすぐ使える「パッケージ化」が進められています。また現場では、納期が厳しいものがあったり、逆にセットで作りたいものがあったり、平準化とは逆行する要望もあります。また、生産ラインが複数あるケースでは、ライン間の負荷の平準化なども必要になってきます。アスプローバ社では、このような要望にこたえられるよう、継続的な改良を行いたい、としています。
(了)
コラム編集部
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