困ったこと35~スケジューラと稟議書~どうすれば通るか

2023.08.23A3:生産スケジューリングの悩み相談

 アスプローバ社では、スケジューラ導入に関する悩みごとを解決するため、「困った事35」をまとめています。その中に「稟議書の書き方に苦労した」というのがあります。稟議書について、共通する常識と、スケジューラ特有の要素について、考えてみましょう。

稟議書の常識とは

 稟議書とは、何かをやろうとするとき、社内の承認を得るために、各階層の意思決定者から、順番で「はんこ」または「サイン」をもらう書類です。日本独特のボトムアップ型の意思決定法です。

 必ず盛り込むべき内容は次の通りです。

  概要: 対象となる物品や契約内容などの情報
  理由: 稟議の理由や必要性を説明する
  効果: 稟議の承認による利益や効果を示す
  費用: 必要な予算や費用についての記載

 書き方の一般的な常識を2つあげます。まず、わかりやすく、簡潔に書くことです。承認する人は、その問題について詳しくないことが多いからです。また立場上、いろいろな問題にかかわっていて、たくさんの書類にはんこを押さなくてはならない――そういう人にも一通りのことをわかってもらうため、文章にはできるだけ専門用語を使わないようにしましょう。そして「これだけ見ればわかる」という図解を1枚入れるのもいい方法です。わかりやすさは、提出した稟議書が後回しにされず、早く決裁が下りることにもつながるでしょう。

 もうひとつ大事なことは「説得力」です。なぜ必要なのか、どんな利点があるのか、ないと生じる不都合を書きます。「なるほど」と思わせる言葉を探しだし、承認者の気持ちに働きかけることを考えてみましょう。

スケジューラの意義付けと投資金額

 さらに具体的に、スケジューラ導入の稟議書を書く場合の注意点を考えてみましょう。意義、投資金額、費用対効果、そして社内の根回しについて、簡潔に説明します。

 まずスケジューラの意義をどう説明するか、です。大義名分的には、顧客の要望をかなえつつ、即納を図るためには、工場の生産効率向上が欠かせないことを述べます。現場からの視点としては、「業務の属人化」を防ぐという利点があります。生産計画担当者が不在や病欠の時、別の担当者が計画立案をするものの、なかなかうまくいかないのものです。個人任せの表計算ソフトではなく、パッケージの導入をするべきです。

 次に、投資金額はどう示せばいいのでしょうか。代理店に聞けば一応金額は出てきます。ただしその金額が妥当なのか、判断が難しいところです。あるコンサルタントは「1社の見積もりだけでは不安であれば、複数社から見積もりを取って比較検討し、相場感を把握するのがいいでしょう」と助言します。

費用対効果、そして社内根回しは

 費用対効果をどう示すか、これも難問です。効果について確証が得られず、類似の事例があっても、自社もそうなれるのかという疑問が残ります。この問題に対しては、概算でもよいので、効果を具体的な金額で算出してみるのがいいでしょう。たとえば在庫削減などは、算出しやすい指標です。数字が出ると効果が分かりやすく感じられます。また、算出の過程で、想定とは異なる指標で効果が出る・出ないといったことが分かることがあり、目的や目標を見直すきっかけになるかもしれません。

 また次のような解決策を提案するコンサルタントがいます。「一工場だけではめざましい効果が出ない場合、同じ問題が他の工場でも起きていないか確認し、複数工場を考慮した視点で起案するのもいい。また小規模に試行した成果、あるいはトライアル版を用いた検証結果があれば、結果を保証できないという心配は、かなり解消できます」。費用対効果の示し方については、別稿でもっと詳しく説明したいと思います。

 そして最後の課題です。社内に対して、事前の根回しはどこまでやるべきでしょうか。「みんなが言いたい放題で、そもそも仕様としてまとめるのが大変。工場長や部長にはどこまで説明しておくべきだろうか」。そんな悩みを聞きます。これに対してコンサルタントはこう助言します。「すべての意見を取り込もうとすると、枝葉の問題も含まれてしまい、考慮する範囲が広くなりすぎます。範囲を狭め、まず取り組むべき課題に絞ると、まとめやすくなります。すぐにやるべき部分は詳細に、未来のことはざっくりとまとめるようにして、目的を意識した全体像が分かるようにするといいと思います。千里の道も一歩から、というように、小さくても進んでいくことも大切です」

 アスプローバ社では、ナレッジセンターを設け、稟議書の書き方についても多くの情報を提供しています。とくに他社の事例は強力なツールになります。今後も、不安を解消できるような、情報や資料のひな型を充実させていきます。


(了)


技術革新や予測不能な外的要因に迅速に対応できるよう製造業務においては、より一層生産プロセス全体の改善と生産効率向上が求められています。 データやデジタル技術を活用し、生産リードタイム短縮や在庫・コスト削減などを実現する製造現場におけるDX推進の一つとして、生産スケジューラの導入がカギとなります。 次のページでは、生産スケジューラ導入によって具体的にどのような業務改善が実現したのか導入企業の事例もご紹介しています。ぜひご参考にしてください。 img_banner_aps