欧州で約300の工場がAsprovaを導入~ドイツ支社長・藤井啓二が語る欧州の製造業

2023.03.03X1:アスプローバ社員インタビュー

 ドイツに長年駐在し、アスプローバ社のドイツ支社長として、また独立したコンサルタントとしても活躍する藤井啓司さんに、欧州製造業や生産計画の現状を聞きました。日本の製造業の優れた点も話してくれました。

東欧諸国を開拓

ー 日本の生産スケジューラであるAsprovaを、欧州で導入するのは大変では?

 ドイツには、日本製品が受け入れられにくい土壌が多少あるのは確かです。日本車はドイツ車の競争相手であるという認識が広まっています。プライドも高い。ただ変化も感じられます。2010年~11年ころは、Asprovaを見せると「複雑すぎる」という反応が多かった。「われわれにはERP(基幹業務システム)がある、MES(製造実行システム)もある。改めてややこしいスケジューラはいらない」と言うのです。ところがこの2年くらいで風潮が変わり、やはり本当のスケジューラが必要であることが理解されてきました。だいぶ導入のカーブが上がってきました。とはいってもほとんどの工場ではエクセルを使っており、市場開拓の余地が大きいと思っています。とくに決断の早いオーナー企業や中小企業が有望です。

 今の得意先は、ドイツ本国よりも東欧に多いのです。ポーランドとチェコには有力なパートナー企業が存在します。これらの国々は人件費が安く、国際的な企業の工場がたくさん立地しています。ヨーロッパ全体で約300の工場にAsprovaを導入してきました。ポーランドが120社ととくに多く、チェコは25社程度ですが大企業が含まれ、一社が世界各地の複数の工場に導入しています。

 競争相手もあります。たとえば「シー○○ス」というスケジューラです。シー○○スの名前に惹かれて、そっちにお客さまが行ってしまうこともあります。悔しいですが「どうぞ使ってください」と言います。他社スケジューラ導入後の失敗例を多く知っているので、またもどってきてくれると思っています。

標準化に優れる日本

ー 日本と各国の製造業を比べて、強み、弱みをどう感じますか

 日本の製造業の強さは、産業の基礎がしっかりしていることです。素材から始まってさまざまな段階の製造業が集積している。米国やドイツも同様です。中国もそういう方向になってはいますが、まだ組み立てが中心です。

 ものづくりの総合力に関してはドイツに比べても、日本は優れています。中国、韓国という競争相手も近場にいるし、国内でメーカー同士が、同じような種類の製品を作って切磋琢磨(せっさたくま)している。ドイツは競争相手が多くいる分野には手を出そうとしません。

 とくに工場管理能力、細かさで日本は優れています。働いている人の能力もそうです。日本のシステムではものづくりの工程が標準化され、その標準を守ろう、さらに高いレベルにしようとしています。そうしたルールがシステムに組み込まれています。ドイツでは標準化の点で日本のようにいきません。

 生産計画の構築にあたっては、ものづくりのルールを「マッピング」していかなくてはなりません。ところが100ルールがあるとしたら、1つ2つは難しいものがある。それがマッピングできないと、後工程や並行している工程に影響します。実際には何百ものルールと制約があり(製品の特性、工程のルールと制約、製造資源の能力、お客様との契約、在庫管理のルール、原材料のサプライヤーとの契約ルールなど)、それをすべて理解してAsprovaにマッピングしなければならない。ヨーロッパのAPS(Advanced Planning and Scheduling)開発者にはそれが難しいが、日本はできる。ですから、Asprovaについて「ヨーロッパの人に、これ以上のスケジューラは作れない」と言っています。

 ただAsprovaの操作がやや難しいのは確かです。UI(ユーザー・インターフェイス)は改善された。あとUX、ユーザーエクスペリレンス。これを改善したいですね。Solverも有望だと思います。複雑な課題を自動計画してくれますから。

目標を示すのがトップの役目

ー 欧州での導入で、問題点はありますか

 ドイツでは、日本の生産方式、たとえばトヨタがやっていることは、よく知られています。本を読んだり、コンサルタントに聞いたりして、知っているのです。でも長続きしません。生産方式には、目に見える形はありません。あるべき姿はどうなのか、何を目指しているのかをトップが打ち出し、現状との差を知る。そこが始まりとなります。そうでないと小手先で終わってしまうでしょう。生産方式のコピー&ペーストでは導入できないのです。

 ドイツのビール工場で、Asprovaを入れて工程を改善したいという要望を受けたことがあります。しかしまず何をしたいのか、トップが決めないといけないと申し上げました。たとえば4日前の注文に対応できるようにするとか。そうした目標に対してルールを決めていく。あるべき姿を求めてやっていくべきだと考えています。

 ドイツのお客さまを日本のトヨタの工場に連れていったことがあります。私もトヨタの工場に入ると、鳥肌が立ち、背筋がピンとします。道場に入ったような緊張感がある。ドイツ人も無言になりました。こんなにすごい生産現場があり、国民性も優れているのに、日本の政府やマスコミは気付いていないようです。それが残念なところです。

ー 1980年代からドイツに駐在しているそうですが、海外を志したきっかけは

 先祖から海外に縁がありました。父方は山口県の萩出身で、ひいひい爺さんは藤井勉三という長州藩士(後の広島県令)。明治維新後に伊藤博文らと共に3年間ヨーロッパに留学しました。母方の実家は、東京下町の勝鬨橋脇で石問屋の商いをしていました。その商売を始めた祖父は上海で商社員をしており、祖母は上海の高等学校で英語の先生をしていました。店には米軍人がよく出入りしていたそうです。また叔母は留学生試験に合格し、羽田空港からパンナム機でアメリカに出発したのですが、彼女がタラップを上り、そして飛行機が遠くに消えていくのを見ながら、羨望と不安を感じました。

 家族で萩から鎌倉に引っ越した私は、鎌倉の海岸で沖を見ながら、はるか彼方にあるアメリカという国に行きたいな、と強く思っていたことを記憶しています。そんなこともあり、私も海外に来たのかなと思っています。

(了)


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