平準化生産における投入順序を最適化するスケジューリングSolverとは? ~笠原康典

2022.08.03S01:組立ラインの投入順序を最適化したい , X1:アスプローバ社員インタビュー

アスプローバ社 コンサルタントに聞く① 笠原康典

 アスプローバ社が、Asprovaのオプション機能として開発したSolver(ソルバー)は、これまでの生産スケジューラの概念を変えるような存在になりそうです。その第1号「S1」では、生産の平準化という難題に挑んでいます。アスプローバ社のシニアコンサルタントである笠原康典(かさはら・やすのり)さんに、初導入の経緯や将来の展望を聞きました。

全体を俯瞰する

- S1とは、どのようなものでしょう。

 一言でいえば、生産順序の平準化を可能にしたスケジューリングエンジンです。正式な名前は「平準化生産における投入順序を最適化するスケジューリングS1」といいます。

 平準化とは、いろいろな種類の品目を均等にばらして生産することです。同じものをまとめて生産するロット生産と対比した考え方になります。平準化の目的は、部品調達や在庫、作業負荷のぶれを少なくすることです。お客さまの需要に対して「必要なときに必要なものを必要な数だけ供給する」ということでもあります。それによって、生産効率を上げることができます。まさに生産管理の基本であり、生産計画の目的は、この平準化のためと言っても過言ではないでしょう。

- それが今までのスケジューラでどうしてできなかったのですか。

 平準化できたか否かは、並び替えを完成して、全体像を俯瞰(ふかん)して見なければ判断できないのです。最初から平準化を狙って正確に順番を決めて並べることはできません。さらに、複数の作業区がつながったベルトコンベアラインでは、前工程の事情、自工程の都合、後工程のことなど、すべての要件を考慮して平準化することは、本当に困難です。

 ところがSolverは、この「最後まで並び替えて俯瞰して見る」ということを、愚痴ひとつ言わずに、10万回でも100万回でも徹底的に計算し、実行してくれるのです。理想とする形を100点としたら、初めは60点、70点であっても、試行錯誤しながらいいものを見つけていく方法です。既存のスケジューラは手間も知識も必要で扱いが難しい、といったユーザの「困った事」を解消しようと、S1が生まれました。

 第1号のお客さまは、複数種類の最終製品をひとつのコンベアラインで混流生産する組立業のメーカーです。2020年暮れに初回の打ち合わせを行い、ベータ版は21年1月にできました。アジャイル開発という手法を用いたので、従来方式よりずいぶん早く導入することができるようになりました。

イメージ通りの計画ができてくる

- 長い経験から見て評価はいかがでしょう。

 数十年の生産スケジューリングの歩みを振り返って、Solverは実に画期的だと感じています。イメージした通りの計画ができてくるのですから。一番のネックだった設定の面倒さ、変化への対応の難しさが解消されたように思います。

 計算機によるスケジューリングは1960年代からあります。私は、Windows3.1で動いていた「AutoScheduler(Asprovaの旧製品名)」の時からスケジューラと付き合っています。ようやくガントチャートがパソコンの画面でみることができるようになったころです。アスプローバ入社前は、NECネクサソリューションズで、製造業や装置プロセス業のお客さま向けに、ERPシステム、生産管理システムの提案、構築をしており、それら基幹システムの一つのツールとして、Asprovaとつながりがありました。

 さらにその前は、IHI系のメーカーで、航空機のジェットエンジン部品の生産技術検査スタッフでした。ジェットエンジンは、墜落すると粉々になってしまうので、すべての製品特性を記録して管理しておく必要があります。そのため工場内で行われる組立、加工、熱処理などの作業内容を知っていることが求められ、いろいろ勉強させてもらいました。生産現場がスケジューリングに何を求めているか、感覚的にわかります。

三方良しの気配り生産

- S1による平準化はどんな利益をもたらしますか

 Solverの導入を通して、「三方良しの気配り生産」が実現できる、と感じました。それは、「売り手(仕入先または前工程)」「買い手(納入先または後工程)」「作り手(作業者または外注業者)」の3者がWin-Win-Winになり、そのすべてに気を配った理想的な生産方式ということです。

 売り手は、特急注文や数量変動が抑えられて、供給タイミングが均一になり、資材・原材料を安心して供給することができます。買い手は、納期遅れや過剰在庫がなくなり、ジャストインタイムで完成品を受け取ることができます。そして作り手は、忙しくなったり暇になったりすることなく、作業負荷が安定します。

 「三方良し」により、モノの流れが整流化され、工場全体が最適化します。そして、この前にある供給元へデータがつながり、生産計画の起点になります。生産計画の発信源が平準化になります。

- Solverについて、ユニークなPRのアニメも作りました。

 アニメはクールジャパンの象徴でもあり、ウチでも取り入れてみようとなりました。スケジューラは工場の生産計画ですから、とっつきにくいものですが、これは中学生でもわかるような内容になっています。「こういうものがあるんだよ」と、多くの人に知ってほしい気持ちを込めています。



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技術革新や予測不能な外的要因に迅速に対応できるよう製造業務においては、より一層生産プロセス全体の改善と生産効率向上が求められています。 データやデジタル技術を活用し、生産リードタイム短縮や在庫・コスト削減などを実現する製造現場におけるDX推進の一つとして、生産スケジューラの導入がカギとなります。 次のページでは、生産スケジューラ導入によって具体的にどのような業務改善が実現したのか導入企業の事例もご紹介しています。ぜひご参考にしてください。 img_banner_aps
タグ : 平準化 組立工程