遠足のリュックに目一杯のお菓子を ~最適化AI 、S2~炉や槽の詰め込みを最適化するスケジューリング~

2025.01.22S02:炉や槽の詰込みを最適化したい

 工場の生産スケジューリングは、ここ2~3年で、従来のルールベースから大きく変化してきました。その立役者が「最適化AI」です。特定の目標に向かって複数の変数を調整し、制約条件の中で、最も効率的な解決策を見つけます。スケジューラのトップ企業であるアスプローバ社は、生産工程の平準化、しかも複数の属性の同時平準化という従来法では難しい課題に、最適化AIで挑みました。それが開発者も驚くほど短期間でうまくいき、最初のSolver「S1」が誕生しました。続いて取り組んだのが、炉や槽の詰め込みを最適化するスケジューリング です。今回はこの試みについて紹介します。

「炉まとめ」の難しさ

 詰め込みの代表格は、素材の熱処理です。この工程では、金属の部品を炉に入れて、高熱を加えることにより、性質を変えます。一緒に処理できるものはできるだけまとめて炉に入れれば、炉を効率よく使え、コストを低減できます。このようにまとめて処理する方式は「バッチ処理」ともいわれます。

 バッチ処理での割り付けには独特の難しさがあります。一緒に処理できるものかどうか判断しなくてはならないこと、炉の容積に限界があることなどです。いったん炉の扉を閉めたら、処理が終わるまで開けることはできず、終わったものだけ取り出すことはできません。同じ条件で処理するものをまとめる必要があります。

 エンジニアのイアンさんが振り返ります。「S1の場合は、作業を並び替えればよかったのですが、バッチ処理では勝手が違いました。作業を単純に一個ずつ割付けていくと、炉まとめがされないので、納期遅れはなくても効率的とはいえません。一方、作業をまとめすぎると、各バッチを割付けできる日時が狭くなります。その結果、割付け可能な資源が少なくなり、今度は納期遅れが発生します」

 この課題は、数理最適化の分野でよく知られている「ナップザック問題」に似ています。遠足に行くとき、ナップサックの中におにぎりや飲み物をできるだけ詰め込んで、入れたものの総価値を最大にすることをめざします。ナップサックと品物にはそれぞれ容量や大きさがあり、それが制約になります。簡単なようで難しい問題です。

 イアンさんは「私が作ったプログラムでは、割付けする前に一度作業をまとめてバッチにしてから、バッチごとの割付けをしました。また、バッチを固定してしまうと、バッチの構成が悪いために、いい解にたどり着けない恐れがあるので、バッチの再構成も定期的にするようにしました」と話します。

 こうしてバッチ処理のSolver「S2」を、実用までもっていくことができました。

広い利用範囲

 ナップザック問題の解法で行けるのは、1次元の問題です。2次元では間口と奥行きが考慮されます。それに高さが加わるのが3次元です。2段重ねで炉に入れる、といった計画ができるようになります。これがなかなか難しく、2.5次元までは達成できましたが、完全な3次元はこれからの課題になります。

 工業炉の総数は、日本だけでも37000あるそうです。省エネルギーで環境負荷も小さい「高性能工業炉」が開発されています。半面DX化はやや遅れており、炉の効率的な利用は、開拓の余地が大きい分野です。

 またS2は、熱処理だけではなく、バッテリーの充電槽工程や、研磨の工程など、複数の品物を一気に処理する製造工程に幅広く利用可能です。

 さらに今後、別のSolverとも合わせ、炉まとめの最適化方法を発展させることも計画されています。

 イアンさんは「まずは気軽に試せるようにしたい。単純に効率よく炉まとめしたいときに使えるコマンドがあるといいなと思っており、その方向で進めたいと思います」と話しています。これからもAsprovaは、お客さまの要望に沿うよう、進化し続けて行きます。


(了)


技術革新や予測不能な外的要因に迅速に対応できるよう製造業務においては、より一層生産プロセス全体の改善と生産効率向上が求められています。 データやデジタル技術を活用し、生産リードタイム短縮や在庫・コスト削減などを実現する製造現場におけるDX推進の一つとして、生産スケジューラの導入がカギとなります。 次のページでは、生産スケジューラ導入によって具体的にどのような業務改善が実現したのか導入企業の事例もご紹介しています。ぜひご参考にしてください。 img_banner_aps