Solverの新地平 汎用S8の開発
2023.12.07S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したいアスプローバ社の新たな試みである汎用Solver、S8について、同社主催「合同MEET」で示された内容を中心に紹介します。従来では難しかったスケジューリング問題を解決し、人間の感覚に近い結果を導き出し、しかも導入が容易になります。
人間に近づくAI
現在のAI(人工知能)は、特定の課題を処理する「特化型AI」です。囲碁や将棋のソフト、問い合わせ対応のチャットボット、画像処理技術を用いた不良品検知など、どんどん実用化されています。次に来るものとして、汎用AI(AGI=Artificial General Intelligence)が研究されています。汎用性と自律性を持ち、人間と同じようにさまざまな課題を処理することができます。対話型AIサービスのChatGPTは、その初期のものだとみる人もいます。
アスプローバ社は、生産スケジューラAsprovaのオプション機能「Solver」に、汎用性を持たせようとしています。Solverは、AI的な性格を持ち、高難度のスケジューリング問題を解きます。反復改善により、膨大な組み合わせの中から最もよい計画を提示します。S1からS8まで市場投入され、S12まで開発過程にあります。
そのうち「S8」は、金型や治具を用いる工程で、納期遅れと段取りを最小化する計画を立てます。納期順守と段取り最小化は「あぶはち取らず」の関係にあり、それだけでも両立が難しいのですが、S8では、さらに別の要素を考慮し、そのうえ「汎用化」も実現しようとしています。
汎用化は、個別の開発をできるだけ減らす試みです。これまで要件定義や現場での試行(PoC)に、半年から1年かかるのが普通でした。それを、さまざまな応用が利くように進化させ、従来のAsprova体験版と同じように、すぐに使えるようにするのが狙いです。
オーダーの優先度も考慮
アスプローバ社のユーザーやビジネスパートナーを招いて、11月にオンライン開催された「合同MEET」では、汎用S8の紹介とデモンストレーションが行われました。
汎用S8の特徴をまとめると
1 副資源(作業員、金型、治具など)を考慮した計画が可能になる
2 オーダーの優先度を考慮した割り付けができる
3 品目の数値仕様を加味して、作業を割り付ける順番を決める
4 複数の工程を持つ品目の計画が最適化できる(開発中)
ということになります。たとえば「これは仕方がないな、優先度が低いし…」という品目は、多少の生産遅れが出たりします。しかしどうしてもやらなくてはならない品目については、納期を厳守します。このような要件を考慮することで、人間が頭脳を駆使し、さまざまな条件を勘案して立てている「いい塩梅」の計画を、短時間で作成することができます。
すでに試行を終えた件では、導入先から「数分で80~90点の計画ができた」「人間の感覚に近い」という評価がありました。一方で「ペナルティの設定に苦労した」という声も出たということです。ペナルティとは、理想の計画から乖離している度合いを示す数値で、これが少ないほどよい計画となります。汎用化の一環として、ユーザー側でペナルティ式を設定できる仕組みが導入されています。柔軟にできる半面、やりたいことをペナルティに落とし込む難しさも生じます。アスプローバ社では、ペナルティ式の各種サンプルを用意し、支援体制を充実させていきます。
さらに進化するSolver
席上示されたロードマップでは、汎用S8は、11月のVer.1リリースに続き、2024年初めにVer.2がリリースされます。Ver.2では、より精度の高い計画が高速で得られるよう改良されるほか、資源優先度の加味を可能にし、「前後依存後段取り」への対応も可能になる予定です。その後も改良は継続され、新バージョンが公開されていきます。2024年初頭から、月1回程度、Solverに関するトレーニングセミナーを継続開催されます。
ただし汎用Solverは、すべての案件に対応できるわけではありません。その場合は従来のSolverでPoCを試すことになります。
米国のビッグテックが主導する汎用AIは、「人間より賢いシステム」の実現が視野に入り、人類史上の画期になるかもしれません。生産スケジューラの世界では、アスプローバ社が先頭に立ち、未踏の世界に挑もうとしています。
(了)
コラム編集部
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