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海外生産スケジューラ事情-1

インドネシアにおける日系製造業のIT事情(1):
インドネシア日系製造業の現状

インドネシアに工場を持つ、日系製造業のIT事情とは?
中国に3年、タイに3年駐在した経験のある筆者が、それらの国と比較したインドネシア特有のIT導入の実態について現地からレポート。第1回は“インドネシア日系製造業の現状”をテーマに、筆者が感じた問題点や疑問点、注目すべきポイントなどを紹介する。*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
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昨年(2017年)から、アスプローバの日本ユーザーで、インドネシアに工場を持つ企業約100社を訪問してきた。ジャカルタ近辺の日系製造業は東西の工場団地に集まっているが、大まかにいって西側は歴史の古い日系企業、東側は自動車産業を中心とした比較的新しい工場が集まっている。

西側の比較的歴史の古い日系企業では、いまだに「Excel」によるローカルシステムを利用しているところが多い。それに反して東側の比較的新しい企業では、ERPパッケージを導入している工場も多く見られる。5年ほど前のインドネシア経済が“バブル”ともいえた時期に進出してきたこれら企業は、積極的にシステム投資を当時行ったが、実はそのほとんどが成功していない。そのため、インドネシア内需が落ち込む今、新たな投資が難しいという状況に悩まされている。

インドネシア日系製造業の問題点
インドネシアの大手日系企業に共通するのは、日本本社からの情報コンプライアンスによる統制が強いという点である。それ故に世界的に統一した基幹システムを導入している企業が多いが、十分に機能していない。理由は、それらシステムパッケージの命ともいえるマスターデータの精度と製造実績、在庫情報などの問題である。よく耳にするのが、「出来合いのシステムなのですぐに動くのだが、なかなかインドネシア人の社員が正確な情報を入れてくれない」という日本人管理者の嘆きである。比較的立ち上げが容易といわれる財務会計システムでも入力される情報が間違っているために、月締め後に数字が合わないというような状況が頻発している。

また、これら企業にとって重要なデータが全くバックアップされていないなど、驚くべき点も多い。先日、インドネシアの日系システム会社とともにお客さま先へ同行した際も、インドネシアの雨期には付き物の雷で、基幹システムのサーバがクラッシュしてしまったという現場に出くわした。顧客はもちろんバックアップを取っておらず、専門家であるべきシステム会社のSEもアプリケーションの再開にシステム全体をリセットするなど、かなり乱暴な処置をしていた。

インドネシアの日系システム会社

情報システムに関するユーザーとベンダー双方のリテラシーの低さだけでなく、筆者が以前駐在していたタイと比較すると、生産管理システムに詳しいシステム会社およびSEの数がインドネシアは極めて少ない。大手の日系システム会社もインドネシアに支社を置いているが、そのビジネスのほとんどが、現時点では金融や流通を相手にするビジネスであり、製造業を対象とする場合はハードウェア、ネットワーク、ミドルウェアなどのインフラ系のビジネスに傾注している。
アプリケーション(基幹システム)となるとお寒い様相だ。現地の情報リテラシーが貧弱であるとすると、すぐに思い付くのは、専用回線を利用しての日本本社システムへの相乗り(インドネシア工場には端末のみを置く形式)、または昨今の流行からすれば、クラウドシステムの利用であるが、前者は前に戻るが、入力される情報の精度が上がらなければ意味を持たないし、後者に関してはいまだインドネシアの工場区でのインターネット環境に対しては実用に足るものか? 疑問を抱かざるを得ない。

関心の高い現地語でのセミナー
話題は変わるが、昨年(2017年)ジャカルタ市内とジャカルタ近辺の工場区でセミナーを開催した。日本人を対象に日本語での開催であったが、あまり集客はよくなかった。それぞれに“Up to Date”なテーマを用意したつもり
だったが、関心は少なかったようだ。2018年に入って、新たにインドネシア語と英語でのITセミナーを企画したが、こちらは多くの参加者があった。インドネシア政府が独自のIoT(Internet of Things)戦略を打ち出す中、ITツールに関して皆関心がある様子だ。ジャカルタのSI会社に聞く限りでは、SEクラスが20~30万円、PGクラスが10~20万円の月給で、インドネシアローカルのシステム会社に比べて日系は2倍ほど高いようだ。工場にスタッフとして勤めていても、システム会社に転職するインドネシア人も 多い。その意味で、ITシステムの最新情報には皆関心があるのかもしれない。前述のように、生産管理業務に詳しいSEが不足している中、積極的に工場に勤める情報システム要員を採用するシステム会社もいると聞いている。

インドネシア現地のシステム会社
逆に、ローカルのシステム会社は一部の大手を除いて外資と比較し、よりよい採用条件を提示できないことから、経験者よりは新卒者を採用することが多いようである。インドネシア最大の企業グループであるアストラグループが経営する工科大学を訪問したことがあるが、機器は古いものの、それなりにカリキュラムも整っており、学生とも有意義な議論ができた経験がある。後は新卒者の会社へのロイヤリティーの問題だが、3年程度が普通の勤務期間では、十分な新入社員の育成は難しいのではないだろうか? この点については、はなはだ疑問である。

顧客とシステム会社との問題

こうした環境の中では、従来通りの人海戦術による管理を継続した方がよいとの考えもあるが、インドネシアもご多分に漏れず、年々人件費が上がってきている。できるだけ少ない人数で生産性を上げてコストセーブをすることが求められる。そのためには、トータルシステムの適用も必要なのではないだろうか? 求められるは現地日本人の強いリーダシップだ。幸いにして、インドネシア工場での日本人の駐在期間は他国に比較して長いように感じられる。別の観点からすると、インドネシアの日系企業のシステムにはオーダーメイドのものも多い。古い歴史を持つ製造業ほどその傾向が強い。
お相手をするジャカルタのシステム会社からすれば、十分な費用をいただければというところである。実際には要件定義が定まらず、使用するうちにイレギュラーな要望も多く噴出し、システム会社、顧客ともに不幸な結果に終わっている例も散見される。インドネシア特有の度重なる法改正へのシステム改変は致し方ないとして、元来コンピュータでは実現できない機能要求はさけるべきものと考える。

インドネシア版「インダストリー4.0」
2018年4月4日にインドネシア工業省から「インダストリー4.0に向けた産業政策」が発表された。2030年までにインドネシアが世界10大経済圏になるためのロードマップということのようだが、現時点ではまだ、指標の設定という範囲にとどまる。

しかし、その中でも注目されるのは、労働コストに対する生産性を2倍にするなど、素材・部品産業の強化、デジタルインフラの整備などの項目である。生産性を上げることは日本でも急務で、素材・部品産業が強いという点は現在の日本の状況に似ている。その中で日本でも製造業のIT活用が中小企業に関しても進められているが、インドネシアの製造業でもデジタルインフラの整備に比例してIT投資が増えていくのではないだろうか?

既に中国では「中国製造2025」のスローガンの下、製造業の高度化、IT化が急速に進められている。近年、民主主義の政治体制に移行し、法制度や官僚機構の未熟なインドネシアがこれからどうスピード感をもって、インダストリー4.0の指針を実現するのかをしっかりと見守っていきたい。特に、2019年は庶民派ジョコ大統領の再選をかけた選挙が実施される。外資導入も積極的に進めてきた現大統領が再選するのかどうかも、政治的面では大きな分岐点になるのではないだろうか。(次回に続く)

*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
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アスプローバ株式会社 副社長 藤井賢一郎
日本国内・アジア域で500社以上の製造業に生産スケジューラを導入するプロジェクトに関わる。ここ10年は中国・タイ・インドネシアとアジア各国に駐在し、ビジネスを拡大。
生産管理・生産スケジューラに関わる複数著書がある。
アスプローバ副社長の藤井のアジア現地での経験、ノウハウがつまった1冊。
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