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海外スケジューラ事情-4

インドネシアにおける日系製造業のIT事情(4):
インドネシア“ローカル”のシステム会社の実態

インドネシアに工場を持つ、日系製造業のIT事情とは? 
中国に3年、タイに3年駐在した経験のある筆者が、それらの国と比較したインドネシア特有のIT導入の実態について現地からレポート。第4回では、インドネシア現地(ローカル)のシステム会社の実態について取り上げる。
*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。 連載中の本文はこちらよりご覧いただけます。

インドネシア現地のシステム会社を訪問して感じたこと
インドネシア市場での当社活動も2年目に入り、日系システム会社以外にインドネシア現地のシステム会社からて当社代理店になっていただける会社を探して、いろいろな会社を訪問している。 大手企業(従業員規模:1000人以上)は財閥グループに属しているケースが多く、なかなか訪問の機会をもらえない。既にSAPなどの大手ERPシステムを手掛けており、新しい事業に人を割く余裕がないように感じる。中小(従業員規模:100人程度)のシステム会社を訪問すると倉庫のような門構えのオフィスには驚かされるが、人事、給与、会計といったシステム開発で20年以上の歴史を持つ企業も多い。ここでまたぶち当たるのは、生産管理をメイン事業としている独立系のシステム会社がローカル企業の中にも少ないということだ。 やっとの思いで見つけても既に欧米系の生産管理パッケージソフトウェアの仕事で忙しい会社や、長い貢献を認められて欧米ERPメーカーのインドネシア法人として買収されてしまった会社もあった。

これら独立系システム会社のCEOの多くは、過去に欧米などへの留学経験があり、その知識がベースとなり会社を興している。つまり、“日本の大学に留学もしくは日本で就職した後に帰国し、起業する”という人材はまだ少ない。よって当社製品のように日本市場で高いマーケットシェアを持っていても、海外市場での知名度はこれからという製品に触手を伸ばしてくれる企業はまれだ。唯一期待できるのは日本のオフショア拠点としてビジネスを続けてきた会社ということになるが、彼らの持つスキルはWebシステム開発やモバイルフォンのアプリケーション開発のスキルがメインだ。当社にとっては“帯に短したすきに長し”といった状況だ。

見習うべき点もある、インドネシアのローカル企業
前述の会計、人事、給与といったシステム開発会社の話に戻るが、この分野のビジネスにはコンペ製品が多い。こうした業界で生き残ろうとする企業は、システム導入だけではなく、その後のシステム保守に力を入れている。手厚い後フォローで競合他社との差別化を図ろうとしている。経営者が米国で教育を受けてきたこともあり、会社の組織やそれぞれの従業員の役割分担がしっかりとしている。また、社内的にも顧客情報を各部署の人間が共有できるシステムを持っている。当社も見習うべき内容だと感じた。当社としては、こうした企業とどうにかして先方ソリューションと当社製品とのコラボレーションが実現できないかと模索している。 生産管理に詳しいローカルシステム会社では、スキル的に現地でも当社製品に興味を持ち、詳しい説明を求めてくる会社もある。ただ、こうした企業数はまだ少ないので、既に欧米系のシステム製品を扱っていたり、インドネシアの独占販売権を与えられていたりして、彼らにとっての古くからの海外パートナーの承認を取り付けることが、新規製品を取り扱う前提条件となる。欧米系のERPソフトウェアメーカーは自社製品で全ての機能を提供する意向の強い企業が多いため、良い返事がもらえない。 残るはスタートアップ企業となるが、ITの進化のレトリックともいえるのだが、こうした企業は古いシステム環境で開発された業務システムよりは、AIなどの新しい分野や新しいシステム環境で稼働する製品を好む傾向が強い。後から起業するシステム会社の経営者の立場からすれば当然ともいえる。

地元(ローカル)企業とビジネスを始める際のポイント
ローカルのビジネスパートナーとビジネスを始める場合は、中国市場と同様にコピー製品を作られないか?注意する必要もある。その観点からすれば、イスラム教に起因する契約書世界のインドネシアではきちんとした契約書を結ぶ必要があり、結果、知的著作権は守られるものと考えている。 ローカルのシステム会社のSEは皆、英語に堪能だ。花形のIT業界のSEであるから高い教育を受けてきた結果ともいえるが、インドネシア語のできない筆者でも、英語でのコミュニケーションには不自由をしない。また、IT業界といえども、インドネシア人以外の従業員が少ないのも特徴だ。会社自体もそうだが、全てインドネシア人により経営、運営されている。この国の人口は多いが、それにもかかわらず、正社員の口が少ないという実情を反映しているのかもしれない。 インドネシアの企業であっても、IT業界の場合、当社製品のようなその技術保有に時間のかかるものは、その会社のSEの定着度にも注意しなくてはならない。当社中国市場のように上海法人で育成したSEが独立し会社を興して当社製品をメニューに加えるような状況が生まれればまだよいが、どうもまだインドネシアのIT業界は、高い給与を求めてSEが短期間にジョブホップしてしまう傾向が強い。従って、1つの代理店候補の中には、Asprova(当社)ファンになってくれる人材が最低1人は必要だと感じる。

ここまでSEのことばかり書いてきたが、営業はどうだろうか? 営業に関していえば、特定の顧客に長く付いて結果を出している、いわゆる御用聞き営業が圧倒的に多い。インドネシアのイベントなどに出ても、ハードウェア製品を取り扱う企業の出展は多いが、ソフトウェアのそれに関してはあまり見掛けない。イベントやセミナー、広告宣伝やコールセンターなどを利用して新規開拓する姿はあまり見られない。「Salesforce」のような営業支援システムがインドネシアであまり売れていないのも、営業の地位の確立や営業プロセスの充実がされていないことが原因ではないだろうか? また、当社のようなソフトウェアパッケージ会社の営業は、営業と開発のはざまに当たる営業技術の存在が重要だ。
しかし、前述のように営業は営業、SEはSEで職務掌握が厳密に分かれているインドネシアの企業では、営業技術としての新しい部署、もしくは人材の育成が必要となる。また、相手がローカル企業の顧客となると中国市場同様にアンダーマネーの存在も看過しなければならない。特に小さなシステム会社の場合、営業力が弱く、その会社のキャッシュフローが悪い会社も多いので要注意だ。

ちなみに、当社のローカルIT企業の現地代理店は社長をはじめ全ての従業員が中華系のインドネシア人だ、IT企業としては少人数だが、中堅の財閥グループの1社であり、財務的な安心感もある。また、蛇足だが、中華系のインドネシア人の大半はイスラム教徒ではないので、ラマダン月の業務効率低下の恐れもない(まあ、その期間、顧客が休んでしまえば同じだが……)。

インドネシアの人口は2億人を超え、まだまだ、増える傾向にあるそうだ。IT業界(ソフトウェア製造業)も、その他製造業と同様に早い進歩と進化が期待される。

先日、ジャカルタ新聞で、インドネシアの大手通信会社が工場団地を建設経営する会社と提携して工場区へのインターネット環境をさらに充実させるといった記事が掲載されていた。「インダストリー4.0」の流れに沿うということだが、実現すれば、インドネシアのIT業界にとっても喜ばしいことではないだろうか? また、人手不足に悩む日本のIT業界でももっと東南アジアの人材を採用育成して頂けるとありがたい。確かに、現地では欧米系の会社の方が日系のそれよりも高い給与でインドネシア人を雇う傾向があるが、やはり、一度日本で覚えた開発技術や共同作業の姿勢はそう簡単には消えないと信じている。実際、前述の当社ローカルIT会社のパートナーで当社製品の販売に汗をかいてくれている人材も、過去に日本で6年間働いてからインドネシアへ帰国している。もちろん日本語も堪能だ。

次回は、当社ソリューションを現地で長く有効利用している会社と、他社製品も含めて導入および利用に失敗している会社の“違い”を紹介する。(次回に続く)

*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
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アスプローバ株式会社 副社長 藤井賢一郎
日本国内・アジア域で500社以上の製造業に生産スケジューラを導入するプロジェクトに関わる。ここ10年は中国・タイ・インドネシアとアジア各国に駐在し、ビジネスを拡大。
生産管理・生産スケジューラに関わる複数著書がある。
アスプローバ副社長の藤井のアジア現地での経験、ノウハウがつまった1冊。
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