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海外スケジューラ事情-8

インドネシアにおける日系製造業のIT事情(8):
現地IT市場の変化を読む――2019年に向けた取り組みと中長期的な視点

インドネシアに工場を持つ、日系製造業のIT事情とは? 中国に3年、タイに3年駐在した経験のある筆者が、それらの国と比較したインドネシア特有のIT導入の実態について現地からレポート。第8回では、2019年に向けたインドネシア市場の動きと筆者が訪問した幾つかの工場におけるIT利用の状況についてレポートする。
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活況なタイ市場
いきなり他国の話で恐縮だが、アスプローバ(以下、当社)製品のタイ市場は、筆者が中国で起こった
尖閣問題後タイに駐在していたときと同様に活況になってきた。もともとの景気回復に加え、
中国と米国の貿易戦争の影響で、尖閣問題時同様に、中国の日系工場がタイに生産を移管しようとして
いるからである。両国の関係は予断を許さないが、リスクヘッジのため、再度サプライチェーンを
見直す流れは変わらないのではないか? 当社製品の場合、どんなに大きな工場でも、生産量が増え、
多品種生産にならないと顧客は導入を検討してくれない。インドネシアに駐在を始めてから、その状況を思い知らされた。

2019年のインドネシア市場
では現在毎週のように新規訪問しているインドネシアの日系工場はどうかというと、来年(2019年)の話をしても先が見通せない。インドネシア自体、2019年は大統領選挙がある年で大型の公共投資の話は多く出てきているが、その他産業の回復は思わしくない。例えば、先週訪問した顧客は、日本では当社製品のユーザーである上に、会社自体は株式市場一部上場の大手であるが、当社の提案に対して、「まだ先が見えない。現在利用しているERPの有効利用が先の問題。生産スケジューラは独自開発のものがある」などの返事で、箸にも棒にもかからない。そのような状況の中でも、化学材料系の工場や食品工場などでは、「来期の予算を確保するので、見積もりがほしい」などとうれしい回答もあり、業種を絞ったアプローチが必要と感じている。

 

また、ルピア安のため2018年後半になって、積極的に外資企業を受け入れようとするインドネシア政府の施策(外資企業の出資比率を制限するネガティブリスト[投資規制分野]の改正、投資家へのタックスホリデー[法人税一時免税措置]や法人税減税などを盛り込む)にも期待できるが、新規工場や中小工場には当社製品は向かない。

来期の大統領選挙だが、タイの軍事政権の民主化問題も含めて、東南アジア各国の経済状況は時の政権に大きく影響される。
インドネシアでいえば、これまで外資導入を積極的に進めてきた現在のジョコ政権が残るのか?イスラム系の政権になるのか?
によっても、外需/内需のいずれにポテンシャルを置いた政策がとられるのかを見てみたい。

 

システム導入を確実に成功させるノウハウはあるのか?
話をシステム投資に戻すと、相変わらず人手不足の解消や生産の効率化といった観点から
当社日本のビジネスは好調だ。こうした流れが、アジア工場まで浸透してくれるとありがたい
のだが、現実は厳しい。日本の工場はもちろん、中国工場などで当社製品の導入に失敗してしまうと、
それ以上は広がらないという傾向が強い。当社製品の場合、製品そのものよりも、導入先の国の
カルチャーやローカル要員の考え方など、人的な要素をよく理解しないと導入は失敗する確率が高い。

先日もあるインドネシア工場の経営者から、「システム導入を確実に成功させるノウハウはあるのか?」
というような質問を受けた。「それがあれば、私も知りたい!」と言いたい衝動を抑え、当たり前の
回答となったが、「システム要員の教育、導入前のフィジビリティスタディーによる要件の明確化、
カットオーバ後の運用継続の苦労などが挙げられる」として、お互いに議論を戦わせた。顧客からすれば、
製造装置など見える形での投資ではなく、あくまで業務改善や業務標準化という目的で導入される
ITシステムは対投資効果が見えにくい。

話は変わるが、当社自身の地元企業への将来投資と考えて、大学などへのアカデミックバージョンの
提供に関する準備を始めている。これからのインドネシアの工場を現場で支えていく学生らに、
生産スケジューラとはどのようなもので、いかに興味深いかを実感してもらうためである。
タイでは既にこの試みが実行に移されている。現時点でのローカル工場におけるITの有効利用に対する
努力を放棄したわけではないが、中長期的な戦略も不可欠と感じたためである。これが、新興国の学生ら、
特に新しいものが好きなインドネシアの方々には意外と受け入れられるのではないかと期待している。
インドネシアでの当社ユーザーも20社を超えた。この段階でメーカー主導のユーザー会を定期的に開催し、
ユーザー同士で当社製品の有効利用のノウハウを共有できるような活動も2019年から始めたいと考えている。

 

欧米企業と合併してインドネシアで製品製造を行う工場
次にローカル企業の工場を回る中で、日系企業の他に、欧米の企業と合併してインドネシアで製品製造を行っている工場も訪問している。インドネシアではローカル企業側が51%以上の株式を保有しないと外資企業は会社を作れない。他国の工場でも感じたことだが、欧米系のグループ企業の中では、ITに関する本社コンプライアンスが非常に強く、ローカルサイドが独自にIT製品を選択するケースはなく、その使い方についても厳しいレギュレーションがある。先日その一社に業務フローやIT利用に関するグローバル規約を見せてもらったが、印象的であったのは、システムパッケージについては、カスタマイズはせずに、また、全ての機能を利用することなく限定された導入から始めるといった基本的姿勢が垣間見られた。
 

当社も2019年に向けて、業種別のテンプレートを付けた「イージースタートバージョン」の準備を進めている。実際の導入でどのような効果を生むかは、実際に幾つかのサンプルユーザーに導入してみないと分からない。しかし、インドネシアの顧客には、とかく、「製品機能が多く、導入が難しいように感じる」といわれる固定観念を払拭(ふっしょく)していかなければならないと考えている。

その他、来期導入を考えている顧客の多くの中には、「インドネシア工場で導入に成功したので、フィリピン工場やベトナム工場でも利用してみたい」とのうれしい話もある。近い将来には、インドネシア発、その他アセアン域への製品利用の拡大プロジェクトが増えてくるのではないか? とひそかに期待している。そのためにも、現在稼働している顧客の運用継続に関しては、メーカーとしてもしっかりウォッチし、問題が起こる前にフェイルセーフで対処する努力が必要と考えている。多くの導入パートナーと顧客との契約が委託契約であるため、一度システムがカットオーバしてしまうと、顧客に追加予算の計画がない限り既存パートナーでも興味を失うケースも多い。その他の対策としては、その顧客に導入パートナーからその他製品も導入し、顧客とパートナーの長い関係を作ってもらうことも考えられる。

中国に本社を持つインドネシア工場
先日まだ数は少ないが、中国に本社を持つインドネシア工場も訪問した。製品それ自体のパーツは
まだ輸入が多いが、インドネシアが得意とする高級家具の技術を利用して、製品の内装をよりゴージャスに
することにより、他国製品との差別化を目指していた。ここの社長だが、もともとは日系企業で働いていた方で、
システム導入にも長く関わってきた人らしい。彼の意見では、「基幹システムは中国本社が使っているもの、
もしくは中国本社が独自開発したものを使うべきだ」との話であった。

実際にラインシステムを見学してみると、中国本社から派遣されたIT要員が常駐、現場の人間をよく指導していた。
高くなったとはいえ、日本と比較すればまだ安い駐在費用で長くいられるというアドバンテージも背景にはあるの
だろうが、工場長に言わせれば、「インドネシアの最低賃金も毎年上がり、近い将来に中国のそれに追い付いてくる。
そうなる前に本社の人間を招請して、インドネシア人の気質や考え方を理解させたい」ということのようで、
なるほどと感じた。あくまで大手企業に現時点では限られるが、インドネシアの日系工場では、現地要員を逆に
日本に送り込み、教育している。そうした予算も来期に向けて計上している企業も多い。ただ一つ問題があるとすれば、
そうしたインドネシア人が日本から帰国した際にそのまま、日系企業に残ってくれるか? である。

これまではジャカルタ近郊の工場地域における顧客のIT利用状況をレポートしてきたが、
次回からはバンコクからは離れたチレゴン、バンドン、バタム島などでの日系製造業のIT事情を報告する。(次回に続く)

 

*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
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アスプローバ株式会社 副社長 藤井賢一郎
日本国内・アジア域で500社以上の製造業に生産スケジューラを導入するプロジェクトに関わる。
ここ10年は中国・タイ・インドネシアとアジア各国に駐在し、ビジネスを拡大。
生産管理・生産スケジューラに関わる複数著書がある。
アスプローバ副社長の藤井のアジア現地での経験、ノウハウがつまった1冊。
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