総合原価計算と直接原価計算
サプライチェーンマネジメントの主眼は、滞留在庫を最小にしてスループットを上げること。そのキーになるのが原価計算の考え方に別の視点を付加する必要がある。
総合原価計算では製造と販売をサプライチェーン上で区分し、製造オペレーションに関するものは製造原価、販売オペレーションに対応する製造原価分は売上原価とし、売れ残った在庫は製造原価の価値で資産評価する。製造に要した労務費、減価償却費、水道・光熱費などはすべて資産に変換されて、経費からバランスシート上の財産として計上される。したがって、需要が下がっているときに増産すると、減産するときより利益が大きくなる。
これを避けるために考え出された原価計算方式が直接原価計算であるが、このときの原価は直接費(変動費)だけを売上数量に応じて計上するので、原価は増産しても減産しても一定である。そのため直接原価計算は、総合原価計算の問題を一部解決できる。たとえば、製造固定費を増産によって資産勘定(製品在庫)に変換することで利益が増え、減産によって原価増となり利益が減るという問題を解決するが、需給調整によるキャッシュフローを示すものではない。
キャッシュフロー経営に近づけるためのものが直接原価計算といわれるが、やや極端なのが事例計算で示すように(図参照)、需要に合わせた増産・減産の需要調整はキャッシュフローに大きく影響する。たとえば、在庫が十分にあって資材仕入も生産もまったくしないようなケース(期間)においては売上そのものがキャッシュフローであるべきであり、売上に対応する直接費は生産しない限りキャッシュの支出とはならない。
総合原価計算の反省から生まれたといわれる直接原価計算であってもキャッシュフローの指標とはならず、税務会計上の利益計算としても認められない。こうした限界利益のコンセプトは損益分岐点分析や、価格政策による市場セグメント(輸出市場と国内市場)の戦略に利用される。サプライチェーンマネジメントの主眼は、滞留する在庫を最小にしてスループットを上げることである。製販調整というときには、スピードを落としたり停止することであり、サプライチェーンでのシンクロナイゼーションを図るための指標は、あくまでキャッシュフローである。
キャッシュフロー経営が注目される時代はデフレの時代である。直接原価計算の発案も一九三〇年前後で、工業簿記が発達して総合原価計算の精度向上が逆にビジネスの本質から離れてしまった時代の反映である。
これらのいずれの原価計算もきわめて論理的に設計されているが、これに加えて製販調整の資金収支を指標とするキャッシュフローの視点をもたなければ、経営ができない時代となった。それがサプライチェーンマネジメントのキーとなる考え方である。