ユーティライゼーション(稼働率)

サプライチェーンでは稼働率を上げて生産性をアップさせるのは、部分最適でしかない。シンクロナイゼーションでスループットを上げる全体最適では稼働率を犠牲にする場合もある。


 サプライチェーンのリソース(人や機械・設備などの経営資源)の能力をどれだけ発揮しているかの指標がユーティライゼーション(稼働率)である。これは、ある時間区分、たとえば「日」「週」「月」のようなタイムバケットでみたり、ある瞬間でとらえることもできる。一日当りの稼働率は、一日の就業時間で表現される。一日を三シフトで二四時間とすれば、そのリソースが二四時間稼働する状態を最大能力(一〇〇%)と定義することもできれば、八時間(一シフト)、一六時間(二シフト)として、最大能力を定義できる。
 サプライチェーン上で物の流れが滞留して在庫となったり、材料不足でリソースがアイドリング(非稼働)になる。そのとき、スループットが低下しないように、同期化(シンクロナイゼーション)させることがサプライチェーンマネジメントの目的である。ところが、同期化のためにすべてのリソースに対してユーティライゼーションを一〇〇%の状態にしてはならない。それがTOC(制約理論)の主旨である。
 投資金額の大きい設備の効率を上げ、コストを下げるためにその稼働率を上げたいという誘惑は、従来の経営論からすると常識であった。ところが、サプライチェーン上でのリソースの能力は、その構成要素が人や機械、運営方針やオペレーションスキルなどさまざまであることから一律ではない。そのため、すべてが能力一杯(稼働率一〇〇%)を目指すと、コストを部分的に下げることができても、スループットは増えないだけでなく、むしろ在庫や経費が増大する。そこで、ユーティライゼーションを上げて資産の生産性を上げることは、部分最適にしかならない。
 ユーティライゼーションよりもシンクロナイゼーションの方がスループットを上げるのに重要であるのは、組織内における個人プレーの総和よりも、全員が歩調を合わせるシンクロナイゼーションの方が重要であることと同じである。一週間のプランニングバケットの中で、シンクロナイゼーションさせるリソースの稼働が、ある日はアイドリングになっているとしても、シンクロナイゼーションのためのアイドリングは重要である。
 同期生産という概念は一般化しているが、実は効率や生産性という日本経済の成長の中で神話となった至上目標とある面では対立している。
 ユーティライゼーション、すなわち稼働率は効率や生産性と直結しているが、キャッシュフローという全体最適の視点をもつと、稼働率を犠牲にする必要性も出てくる。