ダイゲームメタファ

サプライチェーンの中で在庫とスループットの考え方を、ダイゲームに喩えて理論化したもの。いくら能力のある人だけを集めても、生産はうまくいかず、同期化の大切さを説いている。


 小説『ザ・ゴール』の中で、ハイキング途中のランチタイムにメンバーの子供達にダイゲームでサプライチェーンの統計的変動をシミュレーションする話がある。五人の子供が順番にサイコロを振って目の数だけのマッチ棒をつぎに渡す。まず最初にアンディが、サプライチェーンに投入する数量をサイコロを振って決める。つぎつぎサイコロを振っていき、最後のイバンがサプライチェーンからキッシュを生む製品の出荷数、すなわち販売数を決定する。このイバンのマッチ棒の数が、スループット(能力)である。このゲームのルールは移動させるマッチ棒の数はサイコロの目の数だが、移動する数は各自のボウル内にあるマッチ棒の数に制約される。目の数が大きくてもボウル内のマッチ棒の数が少なければ、その数以上には渡すことができない。目の数が「五」でも、ボール内に三個しかなければ、移動数は「三」である。
 このゲームの特徴は各自のマッチ棒の移動数、すなわち、サプライチェーンのオペレーション能力は平均能力としては三・五(一~六の平均値三・五)でバランスしているが、ゆらぎ(変動)があるために一~六までの間の数がランダムに発生し、その能力を各目がコントロールできないことである。目の数が多くても(能力はあっても)、ボウル内のマッチ棒に在庫がなければ(材料がなければ)、ボウル内の数だけしか(材料入手範囲しか)渡せ(生産)できない。逆にボウル内のマッチ棒が多くても(材料はあっても)、目の数が小さければ(能力がなければ)その目の数だけ(能力の範囲内しか)しかマッチ棒は移動できない(生産できない)。
 このようなランダムな変動(ゆらぎ)のもとで、そのゆらぎは何回かのオペレーションで累積されて、サプライチェーンの中で在庫として貯まっていく。この実験で何が理解できるか。一〇回のオペレーションを繰り返すと投入量三九本のうち二〇本がスループットとして算出され、一九本が在庫として残る。つまり、このようなランダムなオペレーションでは、投入量の半分しかスループットとして算出されないということである。投入されてから算出されるまでのリードタイム(サイコロを振る回数)も、確率としてはほとんど存在しない最小の数五から無限大まで分布する。
 統計的変動がランダムであれば、サプライチェーンの平均能力は一律であっても、その変動は在庫として累積され、その半分しかアウトプットされない。このことは、サプライチェーンの能力の変動が、スループットを落とすというダイナミックスを実証している。その逆のケースは、サプライチェーンの能力がそれぞれ同期化されることである。サイコロの目の数が順番に前の工程と同じ数字で変わっていけば、ボウル内のマッチ棒は滞留することなく流れる。アンディが六を出せば、ベンも六を出し、ベンが三なら、チャックも三を出す。ボウル中のマッチ棒は常にゼロとなり、マッチ棒の供給とスループットは等しくなる。そのような理想系ではボウル内にマッチ棒が残ることはなく、またマッチ棒が不足するようなサイコロの目も出ない。しかも、リードタイムは最小の五回である。