ハイキングメタファ

サプライチェーンの本質を理解するための喩え。ボトルネックを発見し、ボトルネックの能力を上げ、また、ボトルネックに同期させることでスループットを上げることとハイキングの速度を上げることが同じになる。


 小説『ザ・ゴール』の中で、制約理論のベースともなったメタファ、行進(ハイキング)のマネジメントは非常にわかりやすいアナロジー(推論)である。一般的には「ドラムバッファロープ(DBR)理論」として知られているが、ハイキングメタファはその原形といえる。
 ハイキングのメタファでサプライチェーンをモデル化すると、たとえば、五人のハイキングチームが一〇マイルの山道を五時間一列縦隊で移動するという計画は、直列五工程を経て産出される製品のサプライチェーンにおいて、一〇個の製品を五時間で完成させることと同じである。
 このハイキングの特徴は一列縦隊という順序依存関係と平均時速の間には、平均時速は一〇マイル÷五時間=二マイル/時(一〇個÷五時間=二個/時)であっても、この間にゼロ(止まる)から六マイル/時(走る)までの変動を含んでいることにある。このような統計的に変動する(ゆらぐ)オペレーションが、直列に五つ連なっているサプライチェーンをモデル化したものである。
 先頭のアンディ(A工程)が未踏の道(材料)を踏み出し(加工し)、途中で広がったギャップ(仕掛品)をつぎのベン(B工程)が追いかける(AとBの間の仕掛品を消費する)。ベンの後のチャック(C工程)、デイブ(D工程)も、自分の前の人が進んだ距離(仕掛)を進んで(消費して)、後にギャップを作る(仕掛品を積み上げていく)。そして、最後のイバン(最終のE工程)が進んだ距離が、ハイキングチームの進行した距離(完成の数)である。
 このハイキングが成果を上げるためのマネジメントは、まず最も遅いボトルネックに歩調を合わせ、ボトルネックが速く進めるようにする。それによって他にボトルネックが広がり、その新しいボトルネックにまた歩調を調整して、全体のスピードを徐々に上げていくようにすることが必要である。サプライチェーンマネジメントもまったく同じように、ボトルネックを認識し全体を同時並行で同期化させ、ボトルネックの能力を高めてスループットを上げるようなオペレーションが必要である。
 ハイキングのメタファは、交通渋滞とその制御にも応用できる。日本では陸上リレーや水泳リレーのメタファが語られることが多いが、このリレーのメタファは在庫を極限まで少なくする(バトンタッチで時間のロスをなくする)理想系の中での話であって、応用の広がりは少ない。