ゆらぎ

現実のビジネス活動は生きている。その中で、試行しながら模索する「ゆらぎ」は進化のために不可欠である。サプライチェーンにおいても、ゆらぎはいくつかの問題解決につながる可能性がある。


 「ゆらぎ」とは、複雑系の源流ともいえるプリゴジン著『散逸構造論』でのキーワードである。熱力学などの物質化学からスタートした概念「ゆらぎ」の役割は、生命や組織や社会の進化(自己組織化)のために不可欠なものである。物質の位相変化(気体、液体、個体などの相互間の移行変化)や化学反応なども、分子レベルのゆらぎが引き起こしているという。
 この「ゆらぎ」がサプライチェーンのビジネスモデル開発に果たす有用性は何であろうか。人間が設計するビジネスでは、人間は「全知全能」の「神」であって、あらゆる状況を知り得て、将来予測も可能である。また、優れたリーダーを得たら必ず成功するという経営理論が、従来のパラダイムであった。ところが、現実には需要動向や、ビジネスに参加しているサプライヤ、カスタマー、コンペチター(競合相手)の動向などを事前に読むことは不可能である。世界中で、われわれはビジネスの競合や協同をしている。何が正解(生き残れるソリューション)か、実際のところはわからない。「ゆらぎ」とは「安定的固定的」な状態に対する反対概念であり、常に動き回って試行しなが模索する行動であり、「創発」(複雑系の新しい進化状態を創る)を促す重要なコンセプトである。
 サプライチェーン革命を起こした企業として列挙できるトヨタ、デルコンピューター、ウォールマート、ソレクトロンなどは、それぞれ独自の背景と原因があったかもしれないが、一つの共通点は、従来のパラダイムに安住しなかったか、またできなかったことである。初めての試みが、必ず成功するとは限らない。それでも、各社はそれぞれ「まずはやってみる」または「やるしかない」の「ゆらぎ」があったに違いない。ゆらぎとは多様性を作ることでもあり、いくつかの複数のソリューションを抱えるために有用である。
 ゆらぎは常にダイナミックに、またランダムに動き回っている状態であり、一つ一つの行動に意味と目的があるわけではない。しかし、ゆらぎがあることで、思いがけない突破口が発見されるかもしれない。ゆらぎのない世界は固定的、安定的で冷たい氷の世界であり、「死」の世界である。サプライチェーンを流れる「物」や「金」はゆらぎを許容し、ダイナミックに同期化している「生きている」世界である。