自律分散制御系
サプライチェーンマネジメントにおいては、個々が最適解を求める自律した制御が必要である。情報を共有化し自己の利益を最大にするマネジメントとして、自律分散制御が新しいシステムを創発する。
自律性とは複雑系のキーワードであり、複雑系の要素モデルであるエージェントの自律分散制御は、中央の集中制御に相対する概念として登場する。サプライチェーンのオペレーションを担当する設備や人や材料の動きを、すべて集中コントロールセンターでモニターし、あらゆるケースを想定したプランニグシステムで管理するのが、従来のパラダイムであった。
サプライチェーンでは、中央コントローラが指令を出してオペレーションするのではなく、各リソース(人や設備)が自分の前後の在庫バッファ状況などを見て判断し、行動するためのルールと、判断のための情報共有の仕組みのみで自律的にオペレーション要件を決定する。これは、中枢神経ではなく、自律神経が筋肉の動きを制御することによって、生命体も複雑で高度な生命活動を営むことができるのと、同じことである。同じように、カンバン方式(JIT)も、場面場面の情報によって行動を起こす自律分散の仕組みが、全体最適になるスループットを上げる仕組みを創発しているともいえる。
自律分散制御系によるプランニングと実行は、サプライチェーン全体のプランニングとどんな関係にあるのであろうか。多くのプランニングシステムの概念は、組織や企業を越えてどこまで情報を共有化するかというように、サプライチェーン全体の可視性をアピールしている。それは、情報共有化は創発を促す仕組みであって、中央に一方向で情報が集中化する大本営の概念とは違うものである。
交通情報を全ドライバーに流すことで、全ドライバーが交通渋滞を避けて流れを良くする交通制御と、交通管理センターがすべての車に方向と速度を指示する交通管制では、どちらが車の流れをスムーズにマネジメントできるだろうか。各ビジネスマンが一つの商法やビジネスルールに基づいて、自己の利益を最大にする資本主義のルールと、国家が経済行為をすべて決める社会主義のルールの優劣の決着は、すでについた。このことからもわかるように、サプライチェーンマネジメントも、自律分散制御が必要である。
市場主義の資本主義が崩壊しつつあるといわれる二〇世紀末は、伝統的な中央の管理体制ではなく、何らかの新しい時代の行動原理やルールで自律分散制御による創発を起こし、次世紀の秩序を形成する必要がある。