メイクマネー

会社とは何か、企業の目的とは何か……など経営の目標として挙げられるものの最上位の概念にメイクマネーがある。メイクマネーなしに、企業は存続できない。


 小説『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)の中で、工場経営の建直しを迫られる主人公アレックス・ロゴは、経営会議の中で議論されている生産性や効率という経営指標に、経営のゴール(目的)として疑問を感じる。ROS(売上高利益率)や時間当りの生産性である効率をいくら上げても、会社は存続できないのではないかと考え、大学教授のジョナと相談した上で、最終的に行きついたゴールは「メイクマネー」であった。目標を「メイクマネー」とするにはあまりにも単純すぎ、また直接的すぎて従来の会計上の言葉に慣れ親しんでいる者にはとまどいを感じさせてしまう。
 現代の経営は、米国の一流大学のMBA(経営学修士)や日本の経営学部のように学問の一つとみなされたり、多くのビジネス書でいろいろ新しい切り口でコンセプトが語られているが、その多くが難解な専門用語となっている。「サプライチェーンマネジメント」も、そのうちの一つであろう。その中で、「金儲け」を意味する「メイクマネー」を、経営のゴールとして表現するには抵抗がある。
 小説であればすんなりと自然に心に届く言葉ではある。効率、生産性、付加価値、稼働率、原価率、マンアワー生産性、マーケットシェア、在庫回転率、投資効率……、というような経営専門用語と経営立直しの手法との間に関連はほとんどない。
 「ビジネスとは何だ」「会社とは何だ」という質問と同じくらい「会社のゴールは何か?」という質問は、従来の経営の常識からはとまどってしまう。「メイクマネー」という単純な目的は、専門家からの借りものの知恵ではなく、会社の存続が危うくなって一番困る者達が、自分の頭で、自分の心で考えることができる原始的な力強さをも表現している。
 学問としての経営や経営専門家の語る経営はどこか鎧が隠されているが、「メイクマネー」は「キャッシュフローを上げる」よりわかりやすくて、行動を起こさせる表現といえる。
 また、経済学で日本語に訳されるマネーはいわゆる「お金」ではなく「貨幣」であり、これもまたわれわれの日常生活では使うことのない専門用語ではないか。メイクマネーを「金儲け」と訳すか、「貨幣の創造」と訳すかで、ビジネスの目的がまったく違ってみえる。「金儲け」の方がはるかに人間のドロドロとした欲望を表わしており、ややもったいつけた「サプライチェーンマネジメント」とマッチするのではないか。