機会損失
市場がグローバル化した今日、売れるのに売る物がない品切れ状況は避けたい。そのことが生じると信用を失ない、取り引きが中止になることもある。単にコストとしてとらえる以上の損失である。
機会損失とは、「売れるのに物がない」、「顧客の要求する納期を守れない」などのために、販売のチャンスを失することである。現代の市場はグローバル化しており、競合相手も顧客も、そしてサプライヤも多くの選択肢の中で製品を選び顧客を選ぶ。需要がありながら供給できないときは、「競合相手にその需要をとられる」「代替製品で需要が満たされる」「需要は満たされない」の三つのケースが考えられる。
このような欠品のケースが、たとえば三%(一〇〇件のうち三件)あるとしよう。もし一番の競合相手の欠品率が〇・三%とすれば、機会損失は欠品率の差だけと考えてよいだろうか。年間一〇〇億円の製品の在庫欠品率が三%として三億円が機会損失になるのだろうか?欠品で品物を手にできない経験をした消費者は、長期間の愛用者であるかもしれないし他社製品からの新規切換者かもしれない。
現在の多くの商品は、いくらでも代替品があるし競合がある。もし、欠品を経験すればそれまでの長期の愛用者が他商品に切換えて、もう戻らないかもしれない。新規の愛用者も、二度と購入しないかもしれない。そうした欠品が何回も続けば、年間三億円という計算上の機会損失は、その何十倍かに増える可能性を秘めている。わずか三%の機会損失であっても、もしかしたら、その企業のサプライチェーンマネジメント能力への不信から、長期的取り引き中止ということに波及するかもしれない。
交通手段のメタファ(比喩)でいえば、ある航空会社が労働組合のストライキで運休すれば、その運休したフライトのキャンセル分の航空運賃のみが機会損失になるのではない。ストライキが多発する運行管理に問題があるのか、労使関係が悪く安全性にも影響するのではないかとか、航空会社の信頼性にまで発展する。したがって、機会損失を起こさない仕組み・管理が大切である。機会損失はコストの世界ではなくスループット、すなわち売上の世界の改善である。コストの世界で評価する損失の十倍以上の売上を損う可能性がある。
機会損失と過剰在庫はキャッシュフローを大きく下げる要因である。また機会損失は販売の機会損失だけではなく、設備や人がアイドリング(非稼動)となって、経費となるキャッシュが流出する現象も含んでいる。