兵法としてのロジスティックス
戦争においては、武器、兵員、食料などを適材適所に供給する兵法が大切。企業経営においても同じで、資源を有効に供給しなければならない。ロジスティックスは、企業活動における兵法そのものといえる。
戦場における問題は、どのように兵力を集中させ、また分散させるかというマネジメントにある。それは、戦闘要員や武器、食料などの資源を、全戦域でいかにシンクロナイズ(同期化)するかということである。つまり、戦闘相手に対して優位になるサプライチェーンのマネジメントの問題である。
敵のいないところに兵力と武器や食料があっても、また敵方が大軍のところに自軍の兵力を分散して投入しても勝てない。勝てる戦闘の場と時間に集中して投入する兵力や食料、つまり戦争資源の同期化を行なわなければならない。また、いつも疾風のごとく行動していては、兵力を消耗するだけだ。林のように静まり、燃え盛る火のように襲撃するかと思えば、山のように微動だにしない。有名な風林火山のもとになった孫子の兵法である。また「敵を知り、己れを知る」「十をもって一を攻める」「兵は多きを益とするにあらず」「初め処女のごとく後は脱兎のごとく」……これらの兵法のほとんどは、数多くの戦争資源を戦争目的にシンクロナイズ(同期化)させるロジスティックス(サプライチェーンマネジメント)について述べたものである。
勝つというゴールに向かって、戦争資源を同期化させるためには、全兵員が常に全力で戦っていては必敗は当然である。サプライチェーンの各リソースがボルトネックの動きに同期せず稼動率を上げれば、いたるところで在庫が溜まり、大切なボトルネックの稼動率が落ち、結果としてキャッシュフローとなるスループットが落ちることと同じである。
日本の戦記には戦闘現場の武勇伝は多いが、ロジスティックスを扱かったものは少ない。生産現場、工場の強さを強調するものは多いが、組織を越えた大域的サプライチェーンマネジメントの強さを紹介するものは少ない。
戦略とは、大局的な全体最適の概念である。サプライチェーンマネジメントでは、部分最適のコストや効率ではなく、全体最適のキャッシュフローが重要である。
戦争では戦闘現場での局部的優劣ではなく、全域でのロジスティックスが勝負を決する。