流れ生産

工場は「生き物」という、複雑系のコンセプトである生産方式。物を流す生産方式ではなく、物の流れが生まれるという方式で、コスト、リードタイム面で大きなメリットが生まれる。


 トヨタ生産方式はJIT(ジャストインタイム)として有名だが、複雑系のメタファ(比喩)でその本質を考えてみる。多くの会社の生産システムは「流し生産」であって「流れ生産」とはなっていない。「流し生産」とは、製品開発と試作試験が終わって大量生産ラインを完成し、生産開始によって資材を投入し、各種加工工程を経て、最終組立や検査を終了する。このラインでは、最終製品を作るまでは、生産担当や生産管理者にとっては「物を流す」コントロールが必要である。そのために、流れの悪いボトルネックを発見し、仕掛在庫として滞留したよどみをなくし、流れの方向を変え、流れのルートを追加する(代替工程)マネジメントが必要である。
 これに対し「流れ生産」にシステムを再構築すると、短期間に工数・在庫・リードタイムが劇的に減少し、コスト二分の一、リードタイム三分の一になるという。工場内に、ある日忽然と広大なスペースが出現し、その効果に多くの人々が驚くという。これは、「物を流す」というシステム全体をコントロールする中枢制御系から、「流れ」が生まれる自律神経系の制御への転換である。工場は、「生き物」である複雑系のコンセプトである。
 サプライチェーンマネジメントの理論から、この「流れ生産」は、サプライチェーンのオペレーションがシンクロナイズされて、オペレーション間での物と能力に過不足のない状態を作ることで、スループット(流れの速さ)を上げる現象として説明できる。コスト二分の一や、リードタイム三分の一という経験値が述べられているが、仮に半導体工場のように二〇〇~三〇〇のオペレーションがあって、リードタイムがプロセスタイムの合計となるタッチタイムの一〇倍であるようなサプライチェーンに「流れ生産」が導入できるなら、コストは五分の一でリードタイムは七分の一という改善も不可能ではない。
 この「流れ生産」のようなコンセプトが生産だけではなく、販売拠点のオペレーション(販売力管理)まで拡大されると、そのサプライチェーンに関係した企業は強い生命力を得ることができるであろう。
 大野耐一氏のもとで、トヨタ生産システム作りに貢献した金田秀治氏によると、このような発想は不安定化状態(ゆらぎ)の中で生まれるという。
 「流す」という客体と主体を分離するコントロールの概念から、「流れ」という客体と主体を統合する自律的動きの概念は、複雑系の視点からも理解できる。