トヨタ式パラダイムシフト

時々刻々変化の中で生き残るためには、従来のやり方を見直し、時代の流れに沿ったパラダイムシフトが必要である。トヨタ自動車が自動車業界で優位に立てたのはトヨタ式生産というパラダイムシフトがあったからである。


 サプライチェーンマネジメントを考えるとき、その理論に影響を与えている、ジャストインタイム(JIT)を生んだトヨタ式パラダイムシフトを考察することは重要である。トヨタ自動車の大野耐一氏のもとでトヨタ式生産システム作りを行なった金田秀治氏によれば、時々刻々変化するビジネス環境の中で生き延びるためには、「今までのやり方」から連続的に進化するパラダイムシフトを考えていかなければならないという。戦後間もない頃の日本の自動車業界は、大量生産方式による圧倒的な優位性をもつ米国メーカーを前にして、従来のパラダイムでは生き残ることはできなかった。
 それを行なったのがトヨタ自動車で、大野耐一氏が米国のスーパーマーケットをヒントにしたというJITは、生産プロセスをロジスティックスとしてとらえるパラダイムシフトがあった。従来のやり方では、最低限「負けないための改善」はできても、「勝つための改善」はできない。既存の組織は過去の成功体験に基づいて設計されているから、世の中の情況が変わればフォーマルな組織では対応できないと考えたのである。
 トヨタ自動車では自主研と称するインフォーマルな集団を、仕組みとして既存の組織の中に存在できるように奨励しており、常に「行動を起こす」ための心理的な不安定化状態(ゆらぎ)に対処できるようになっている。それは、新しい環境でも卓越した利点を求め、「勝つための改善」がインフォールマルな集団から出ることを前提に仕組まれている。しかしその改善のプラクティス(手法)も、フォールマルな手順として組織化されると業界レベルとしての一つのパラダイムになってしまう。そして既存の個別組織、個別技術を再編成するような「つなぎ」の技術が、新しいパラダイムとして生まれる。
 金田氏の理論によると、これらの一連のパラダイムシフトを引き起こす原動力は、「知恵を出す行動を起こさざるを得ない形に追い込むこと」である。その原理は、「知恵は不安定化状態から生まれる」というものだ。
 資材調達から、製造・販売を経て顧客までの物の流れの(サプライチェーン)中では、さまざまな業態・規模の企業がビジネスを展開するが、その中で、パラダイムシフトをする企業は勝ち残っていくことができるであろうが、パラダイムシフトができない企業は、消えてしまうであろう。
 経済規模はサプライチェーンを流れる物量で表現できる。しかし、経済が過去のように持続的に成長しない時代にあっては、企業が生き残るための競合はサプライチェーンの中に参加して、自社に「物」と「金」が流れるようになっているかどうかが決め手になる。