MRPとコンストレイントベースプランニング
資材所要量計画のMRPは、サプライチェーン上のリードタイムから資材計画、生産計画をする考え方である。理想的工場モデルでMRPベースで計画してみても、現実には問題が生じてしまう。
従来のMRP(またはMRP・II:資材所要量計画)やDRPベースの計画も、一つのサプライチェーンマネジメントの手法である。これらをまとめてMRPベースのサプライチェーンプランニングだとすれば、その特徴は何で、そして、コンストレイントベース(制約ベース)のサプライチェーンとの違いは何であろうか。
MRPベースの計画は、生産上の制約とは独立して、需要計画、すなわち販売計画を作成し、サプライチェーン上のリードタイムから資材計画、生産計画を作成する。どんな製品を作るかというプロダクトミックスと、その構成部品(BOM)の決定、工程設計を展開して、各オペレーションに負荷がかかるまで落とし込んだとき、能力の制約が反映されないため能力をオーバーした計画ということになる。オペレーションの能力が十分であれば、MRPベースの計画はリードタイム最小でスループット最大という最適なジャストインタイムの計画となる。
ところが、現実にはいたるところで能力を越える生産量で資材投入と生産計画が実行され、能力待ちの在庫が発生してしまう。理想の工場で作られる計画でも、能力待ちの仕掛、在庫過剰と、一方では材料不足の非稼動のオペレーションが混在する。能力に余裕のあるオペレーションであれば当初の計画としてMRPを使い、現実との乖離は現場の自律的計画で対応する。MRPを現実に対応させようとすると、現実の能力オーバーにならないように需要を調整して、何回も繰り返しMRPを回さなければならない。かなり高速のMRPが必要とされる。
歴史的に日本では欧米ほどMRPが普及しなかったのは、理想の工場と現実との間にギャップがあるために、現場に対応するKKD(勘+経験+度胸)が進化したからではないかという仮説も成り立つ。
ところが、このKKDの部分を情報技術、さらに科学的にプランニングしようという形で登場してきたのが、サプライチェーンマネジメントのプランニングシステムといえる。JITは、コンストレイントベースの実行マネジメントシステムである。コンストレイントを「現実」と置き換えると、多くの日本企業はそれは当然であると反応する。ところが、欧米ではMRPベースの理想的工場モデルからプランニングシステムが発達しているために、「コンストレイント」は新鮮で目新しいコンセプトととらえている。TOC(セオリーオブコンストレイント:制約理論)はTQCともスペルが似ており、日本のTQCとともに、一九八〇年代の米国では生産管理のパラダイムシフトとなる方法論であった。