マスカスタマイゼーション

大量生産の効率性と個々の要求に応じた手作りの利点を、情報技術で実現しようという考えから生まれた。個の要求・ニーズに応え、それを満足させる製品作りのエンジニアリング。


 マスカスタマイゼーションとは、個人の要求、ニーズを認識し、それを満足させる製品仕様を効率やコストを犠牲にすることなく達成するエンジニアリングで、製造・流通・販売を含むサプライチェーンマネジメントのベストプラクティスの一つである。これは、個の要求(デマンド)がトリガー(きっかけ)となって製品仕様が決まるのであるから受注設計であり受注生産であるが、設計・製造・納入を含むサプライチェーンのリードタイムが短かくなければ、実現は不可能である。
 デルコンピューター社がパソコンの分野で、ベネトン社が衣服のデザインで行なったような、新しいサプライチェーンモデルによるタイムベースの競合が加速している。「マスカスタマイゼーション」は、ジョゼフ・パインの著書によって名が知られた。それは、大量生産の効率性と、個々の要求に応じる手作り的職人仕事の利点を、新しい情報技術で同時に生かせるというプラクティスで、これからのサプライチェーンマネジメントにインパクトを与えるものである。
 サプライチェーンは、資材調達から生産……と物の流れを中心にみているが、物の流れのシンクロナイゼーション(同期化)とともに、受注によって仕様を決め、部品表に基づいて資材調達を行ない製品を供給するプロセスをマネジメントする「開発設計」という、別方向の経営資源のシンクロナイゼーションも必要になる。つまり、CAD/CAEなどの情報技術を使った設計モデルが、デマンドによって個別に決定されるところから、サプライチェーンの同期化のオペレーションが始まる。それより物の移動や加工・組立のリードタイムと、開発設計のリードタイムがともに短縮される。これは、営業活動が顧客の要求を特定化することと同じであり、そのデマンドは同時に設計システムへの入力となる。そうなると、数分で設計行為が完了するようなサプライチェーンも今後、可能になるであろう。
 ジャストインタイムで一個流し生産するとき、仕様が個別に異なるものを受注段階から同期化させる事例がナショナル自転車工業のビジネスモデルである。自転車店からの受注をFAXで受取ると、寸法の形状データがCAD/CAMにそのまま伝達される。