フィージビリティ(実行可能性)
サプライチェーンマネジメントにおいても、理想を述べるよりも実行することが大切な思想である。いま、そのためのハードやソフトの開発が進められつつある。何事も実行が伴わなければならない。
サプライチェーンマネジメントにおいて、フィージビリティ(実行可能性)がキーワードとなっている。その理由は、サプライチェーンのプランがフィージブル(実行可能)ではなかったという、歴史的背景があるからであろう。多くの理想論を述べたこれまでの経営思想は、現実の制約を無視している。それは、これまでの経営思想が「ガラガラポンですべてをチャラにする」とか、「すべてをクリアして出直す」とか、「ゼロベースに立って考えよう」というすがすがしい気分にさせるコピーが宣伝されていたが、それらは大体においてフィージビリティが欠如している。MRP・IIのプランニング思想は、現在のBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の主流となる理論であるが、能力無限、リードタイム一定という、現実にはあり得ない理想的前提の上に作られている。そのため、現実の状況に合わせるために、かなり無理をした理論が展開されており、何回も繰り返し計算する必要がある。
それに対して、制約(コンストレイント)ベースのサプライチェーンマネジメントは、フィージビリティベースにシフトしようというものである。デカルトの要素還元主義やニュートン力学の線型数学モデルで宇宙を理想的に説明しようとする流れに対して、複雑系のパラダイムは、人間社会が直面している社会・生命などの直接的制御が不可能であることを悟った点に立脚しているものである。
経済を表現する数学モデルは驚くほどたくさんあるそうだが、現実の経済政策へのフィージビリティを示すものはほとんどないそうである。そのため、美しく理想的なモデルは線型で表現され、非線型の現実も線型に近以することが科学的にも許容されてきた。そして、コンピュータのハードとソフトの発達は、複雑な現実をモデル化する道を開き、フィージビリティと理想論を結ぶツールの開発を促進させている。サプライチェーンマネジメントにおいても、このフィージビリティをベースにすることが大切である。
サプライチェーンマネジメントの理論的ベースとなるTOCを、わざわざ「制約」と理論化することにやや言葉の矛盾を感じる。というのも、多くの理論が現実の制約を無視してきた科学的限界があるからである。日本では「制約」は当然の現実と見なされているだけに、フィージビリティなどのキーワードは、現実優先の現場対応の中では新鮮味がないかもしれない。