デルコンピューター

パソコンビジネスに変革をもたらした企業で、SCMにより見込生産から受注生産に経営の仕組み、生産の仕組みを変革したことで成功した。


 サプライチェーンマネジメント(SCM)が、パソコンビジネスをMTS(見込生産:プッシュ型)からMTO(受注生産:ブル型)に変換することで在庫を短小にしリードタイムを短縮し、スループットを三倍に伸ばした成功事例の典型がデルコンピューター社である。インターネットによるダイレクトマーケティングとコンストレイントベースのSCMがもたらした同社のビジネスモデルは、産業社会の歴史の中で、ヘンリーフォードが提示したT型フォードの大量生産方式によって自動車産業が急成長したことと匹敵するであろう。情報技術を活用したサプライチェーンマネジメントによるこのようなビジネスモデルの変革は、今後、あらゆる産業の在庫管理の概念に革命をもたらし、経済の好・不況のサイクルにも影響を与えている。これは、米国におけるニューエコノミー論の議論にまで、影響を与えている。
 すなわち、デルコンピューター社が行なったパソコンビジネスで、プッシュ型からプル型へ変化させた経営方針は、自動車のジャストインタイムに始まって、家電や衣料品などの日常品分野にまで応用できる可能性がある。受注後四日というリードタイムで納品し、在庫回転率五〇回というのはほとんど無在庫に近い。これは、製品の陣腐化によるロスがなくなるだけでなく、個別のオーダーに仕様を合わせるコンフィギュアツーオーダー(受注組立)を可能にし、マスマーケティングから個へのマーケティングにおいても、大量生産によるスケールメリットを得ることができるようになるということである。
 すなわち、製品においても、スピードにおいても、対競争相手に対して圧倒的な差別化要因になるわけで、これを追随するかどうかは、それぞれの業界で生き残れるかどうかという課題と同義となる。
 デルコンピューター社のパソコンビジネスは、寿司と同じように新鮮さをリードタイム短縮というツールで実現したビジネスモデルである。ついでに比喩(メタファ)で言及すれば、寿司職人がカウンターに座っている客からオーダーを受けて、ネタを切ってシャリをにぎって、カウンターの客に出すということは、コンフィギュアツーオーダー(受注組立)のモデルである。デルコンピューター社は、全世界をインターネットでつないで、このような「出前パソコン」ビジネスを創出したといえる。
 デルコンピューター社の成功の要因は、ダイレクトマーケティング、ATO、そしてロジスティックスのアウトソーシング(フェデックス社)によるバーチャルインテグレーションの巧みさである。これら同社のすべての手法は、最近の情報技術(IT)をインフラとしたビジネスに成功する要因である。