システム化からDX化へ~変わる製造業の業務改善
システム化からDX化へ~変わる製造業の業務改善
システムによる製造業の業務の最適化を実現する手段は、従来の工程・部門管理を中心としたERP(統合基幹業務システムEnterprise Resource Planning)から、機械・作業単位のMES(製造実行システム Manufacturing Execution System)、そして更に自動化を推し進めた最終形がMOM(製造オペレーション管理Manufacturing Operations Management)へと移り変わっています。インダストリー4.0をDX化で具現化したものがスマートファクトリーという概念であり、製造業の高付加価値化と国際競争力強化のために、新興国は国家戦略と位置付けて取り組んでいる最中です。
(1)システム化からDX化へ
システム化の目的が省力化、効率化、間違い防止だとすれば、昨今の注目ワードであるDX化とは、既存システムの置き換えではなく「ITを使用すればこんな便利なことが出来るようになる」という業務改革と言えます。
台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏は、マスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発することで、国内のマスク不足による買占め、転売等を防ぎましたが、これに際して最先端の技術を駆使してシステムを構築したわけではなく、政府によるコロナ禍対応としてOSS(オープンソースソフトウェア)を使って、スピーディに臨機応変に運用できるコミュニティと運用体制を構築した事が評価されたわけです。
業務改革を行うためには現場のオペレーション改革が不可欠で、ITありきで現場のオペレーション改革を実現するコンセプトを作成することで、業務改善と収益改善を実現することが、DX化の意義深いところです。
製造業のDX化によって具現化されるものが和製英語であるスマートファクトリー(Smart Factory)という概念ですが、従来の生産管理システムや実行管理システムの用語が再編成された上で定義されているため、その概要は非常に掴みにくくなっています。
(2)スマートファクトリーの概念
製造業向けシステムは生産管理、生産計画、販売購買管理、在庫管理というビジネス機能によって区分されるERPから、人や機械といった製造現場レベルの管理に重点を置いたMESへとシフトしており、今後は計画・スケジューリング・製造管理・工数管理・品質管理など一連の生産プロセスを統合化し、自動化・無人化を進めるMOMに移行しています。
米国のMES推進団体であるMESAによると、MESは上位のERP層と下位のPLC層の間に位置し、生産スケジュールに基づいて作業員(ヒト)に作業指示を出し、原材料や仕掛品など(モノ)の動きをリアルタイムで監視し、生産設備(機械)に直結して稼働状況や異常発生を把握します。
- 1.ERP:工程単位、部門単位の管理⇒正確な情報管理(モノの動き)
- 2.MES:機械単位、作業単位の管理⇒生産効率向上と製造コスト削減(ヒトの工数、機械の稼働状況)
- 3.MOM:MESの自動化を進めたもの
- 1.作業スケジューリング(Operations/Detail Sequencing)
- 2.生産資源の配分と監視(Resource allocation and status)
- 3.作業手配・製造指示(Dispatching production unit)
- 4.実績分析(Performance analysis)
- 5.保全管理(Maintenance management)
- 6.工程管理(Process management)
- 7.品質管理(Quality management)
- 8.データ収集(Data collection/acquisition)
- 9.製品の追跡と生産体系の管理(Production tracking and genealogy)
- 10.作業者管理(Labor management)
- 11.文書管理(Document control)
ERPとMESの違いは管理の単位の違いとなりますが、製造業の至上命題である生産効率の向上と製造コスト削減のために、現場レベルの情報を収集・管理を行うのがMESであり、さらにデジタル化による自動化を推し進めスマートファクトリー化をするのがMOMです。
(3)変化するMESの概念
従来MESは生産実績や工数実績を入力するためのPCやタブレットなどの現場端末的な意味合いが強かったのですが、現在では従来のERPシステムの機能を現場目線で再編成したものを指すことが多く、生産スケジューラもMESの機能の1つに位置づけられています。
MESには11の機能があると定義されていますが、そのうち作業スケジューリング、生産資源の配分と監視、が管理する情報をより現場の作業レベルで再編成した内容になっています。
MESやMOMの発展とはあくまで情報管理の手法の高度化であり、最終的には製造業の使命である「良品を遅れずに納品すること」に繋がるものでなければなりません。
(4)スマートファクトリー実現のためのDX化
製造業のIoTで「モノとインターネットが繋がる」という場合のモノとは「生産財(industry goods)」と「資本財(capital goods)」であり、生産財の内訳は材料・仕掛品・製品など、資本財の内訳は機械や人です。
そして生産財について収集する情報は投入数と生産数、歩留まり数とNG数などの「成果」であり、資本財について収集する情報は直接時間(稼働時間と作業時間)と間接時間(停止時間)、温度や回転数などの「状況」です。
IT技術を使い第四次産業革命を起こそうとする世界的な動きであるインダストリー4.0を具現化するスマートファクトリーでは、製造設備や検査機器に接続され制御管理を行うPLC(Programmable Logic Controller)から現場情報をリアルタイム収集するIoT技術のみならず、生産計画をセットするだけで製造からNG発生時の機械交換などの全てを自動化・無人化することを究極の目標としています。
DX化による製造業のスマートファクトリー化は、国家の輸出競争力を高めることで国富を増やすという重要な国家戦略の一つとして位置付けられており現に世界の新興国は軒並みインダストリー4.0を自国独自に合わせて再定義した上で、製造業の高付加価値化と国際競争力強化に取り組んでいます。